研究課題
KRAS変異腫瘍について膵臓癌と肺癌を主な対象として検討を行った。膵臓癌ではEGFR阻害剤であるエルロチニブが承認されているがその効果は限定的である。EGFRタンパクのPI3K, ERKパスウエイに対する関与を調べたところ、上皮系マーカーが陽性の細胞株でのみEGFR阻害剤によりERKパスウエイの抑制が認められた。このERKパスウエイの抑制は細胞株のエルロチニブに対する感受性と相関しており、上皮系マーカーの発現がEGFR阻害剤の感受性を予測する因子になりうると考えられた。このERKパスウエイの抑制は野生型RASを介していたが、変異KRASの活性はEGFR阻害剤では抑制されず、ERKパスウエイの完全な遮断にはEGFR阻害剤では不十分と思われ、MEK阻害剤などERKシグナルの直接阻害が必要と考えられた。一方、PI3Kパスウエイについては上皮系ではERBB3タンパクが関与している一方、間葉系細胞ではIGFRによる制御を認めた。これらのことからKRAS変異膵臓癌においては、上皮系腫瘍でのみEGFRファミリータンパクが下流シグナルに関与していることが示され、EGFRファミリー阻害剤を使用する際の患者選択に有用であることが示唆された。一方、KRAS変異肺癌細胞株においてPI3Kシグナルの制御について検討したところ上皮系腫瘍ではERBB3が膵癌と同様関与している一方、間葉系腫瘍では、膵癌で認められたIGFRの関与は限定的であり、別の受容体型キナーゼが関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
膵癌におけるEGFR阻害剤のPI3キナーゼパスウエイ、ERKパスウエイに対する関与は限定的であった。このことは臨床試験の結果と一致しているが、EGFR阻害剤を用いた新規治療開発の上では不利であり、計画の修正が必要であった。一方、肺癌においてはPI3キナーゼパスウエイの制御については特に間葉系腫瘍において新たな受容体型キナーゼの関与が示され、今後の解析結果によっては新規治療に結びつくと考えている。
膵臓癌についてはEGFR阻害剤の効果は限定的であることから、MEK阻害剤とEGFRファミリー阻害剤の併用療法について検討を加える。同療法はすでに臨床試験がなされていることから上皮系マーカの検討が患者選択に利用できる可能性について前臨床の解析を追加する。肺癌については、特に間葉系腫瘍のPI3キナーゼパスウエイの制御が膵癌とは異なることが示唆されたことから、臓器特異的な治療開発に向けさらに検討を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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