研究課題/領域番号 |
26830107
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
安達 圭志 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40598611)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | キメラ抗原受容体 / がん / IL-7 / CCL19 / 抗がん作用 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、より効果的に抗がん作用を発揮する次世代型キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)発現T細胞を用いた、新たながん治療法を創出することを目的としている。これまでに以下のことが実施された。 1. 自己切断能を有するピコルナウイルス由来2Aペプチドを利用して、がん抗原特異的なCARと共に、細胞の長期生存に関わるサイトカインとしてIL-7を、T細胞など免疫担当細胞の局所遊走を誘導するケモカインとしてCCL19を、一細胞に同時に発現させるためのコンストラクトを作成した(以下、7×19 CARとする)。2. レトロウイルスベクターを用いて、上記のコンストラクトをマウスのプライマリーT細胞に遺伝子導入した。CAR、IL-7、CCL19の発現は、フローサイトメーター、およびELISAを用いて確認した。3. 放射性クロミウムリリースアッセイを行った結果、7×19 CAR-T細胞は、従来型CAR-T細胞と同等の殺腫瘍能を有していることが分かった。4. 7×19 CAR-T細胞は従来型CAR-T細胞と比較して、IL-7の作用によって、生存能と増殖能が増進していた。5. 7×19 CAR-T細胞の産生するCCL19のT細胞に対する走化性誘導能は、トランスウェルアッセイによって確認した。6. 実験的がんマウスモデルにおいて、7×19 CAR-T細胞を投与することにより、従来型CAR-T細胞の投与よりも、マウスの生存期間が延長された。7. 組織学的解析の結果、7×19 CAR-T細胞が投与されたマウスの腫瘍組織内には、著名なT細胞の浸潤が見られた。 以上のことから、7×19 CAR-T細胞は従来型CAR-T細胞と比較して、優れた抗がん作用を有している可能性が高いことが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した計画では、平成26年度中には、遺伝子導入のためのコンストラクトを作成することと、in vitro系の実験を行うことで、実験的がんマウスモデルを用いたin vivo系での実験を行うための基礎的・予備的データを集積する予定であった。実際に、前述の1~5に示したように、ほぼ予定していた通りのデータを集積することができた。 さらに、まだ初期段階ではあるものの、前述6、7のように、申請書に記した計画よりも若干早くin vivo系の実験を開始し、データを集積することができている。 以上のようなことから、『(2)おおむね順調に進展している。』と自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
申請書の計画に記した通り、今後は、主に実験的がんマウスモデルを用いたin vivo系での実験を行う。 平成27年度中は、7×19 CAR-T細胞がその効果を効率よく発揮するための、免疫学的環境を検討する予定である。7×19 CAR-T細胞の効果が高かった群と低かった群を比較し、特に腫瘍局所における差異に着目する。組織中サイトカイン・ケモカイン濃度、細胞浸潤の有無、細胞浸潤が見られた場合、浸潤細胞群の構成を中心に、経時的な解析を詳細に行う。 さらに、生体内で7×19 CAR-T細胞が効率的に長期間生存し、抗腫瘍効果を発揮するために必要な内因性(宿主由来)免疫細胞と、その相互作用に関する研究も行う。様々な免疫細胞、特にT細胞を欠損した遺伝子改変マウスを宿主としたモデルにおいて7×19 CAR-T細胞の効果を詳細に解析し、腫瘍退縮に必要な内因性免疫細胞の同定を行う。 また同時に、実際の臨床の現場で重要な問題となっているサイトカインストームなどの有害作用の有無、あるいはその程度を解析し、より安全な治療法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の支出に関し、特に消耗品について、緊急性がない場合には、製造業者が割引キャンペーンを行っている期間に購入することを心がけていたために、予定よりも予算の消費が少なくなった。 また、その他の支出に関し、遺伝子合成の業務委託を平成27年度に行うため、予定よりも予算の消費が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度については、平成26年度に予定していた遺伝子合成の依頼を業者に行うことはもちろん、主にがんマウスモデルを使用したin vivo実験を多く行う。したがって、平成26年度と比較して平成27年度には、かなり多くのマウスを消耗品として購入することになる予定である。
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