研究課題/領域番号 |
26830114
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
古宮 栄利子 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (90647009)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CD26 / periostin / 悪性中皮腫 / 浸潤 / 転移 / 生存 |
研究実績の概要 |
膜表面分子CD26は悪性中皮腫において、浸潤・転移を促進することが明らかになっているが、その機序は未だ解明の途上である。そこで本研究では、複数の悪性中皮腫株においてCD26と発現相関するタンパク質periostinに着目し、periostinがCD26の浸潤・転移能に不可欠であることを明らかにし、詳細なメカニズムの解明を行った。 まず、periostinのノックダウン実験により、CD26の浸潤促進作用がperiostinの発現上昇を介していることを明らかにした。更にその機序として、CD26がSrcの活性化を介しperiostinの転写レベルを上昇させていることを解明した。以上の結果に加えて、CD26発現悪性中皮腫株は、periostinコーティング条件下で、CD26非発現細胞よりも有意に接着を促進することが複数の細胞株にて一貫して示された。更に免疫沈降法において、CD26とperiostinが共沈降することから、CD26はperiostinの発現制御だけでなくタンパク質レベルでも会合し、接着を亢進することで浸潤・転移能を促進していると考えられる。以上より、CD26はperiostinとの相互作用を介して悪性中皮腫の浸潤・転移を促進していることが示されつつある。 また申請者は以前、軟寒天培地培養法において、CD26発現株では一貫してコロニー形成能が高いことを見出している。本研究では、血清飢餓条件において悪性中皮腫株を培養すると、いくつかの細胞株で細胞が浮遊状態で生存すること、またCD26発現株は一貫してその条件での生存能を亢進することを明らかにした。以上より、栄養飢餓状態において、CD26は胸腔内に貯留する腹水などでのがん細胞の浮遊生存能を亢進し、結果として悪性中皮腫の浸潤や局所転移を促進するとのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の一年目の目標は「細胞接着変化を規定する分子群の解明」であったが、少なくとも上記の分子群の一つとして、かねてより着目していたperiostinが、CD26の示す接着・浸潤促進能において重要な働きをしていることが示された。また、加えてそのメカニズムの一部を解明することができた。但し、この研究課題を応募する際には、CD26が浸潤・転移を促進する原因として、細胞接着能の低下を想定していたが、periostinはむしろ細胞接着を促進することで、悪性中皮腫の浸潤を促進していると考えられる。更に、課題応募後の研究により、CD26は接着能の低下ではなく、栄養飢餓条件における生存能の亢進により、軟寒天培養法のコロニー形成を促進していると考えられた。そのため、今後はperiostinとCD26の相互作用による浸潤促進作用の詳細なメカニズムの解明に加え、栄養飢餓条件における生存能亢進メカニズムについて併せて解明していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記にあるように、これまでの研究において、CD26が悪性中皮腫の浸潤を促進する要因として、申請者はperiostinの発現上昇による接着・遊走機能の変化や栄養飢餓条件における生存能の亢進作用を見出した。 本年度は、CD26とperiostinのタンパク質レベルでの相互作用が悪性中皮腫の浸潤・転移を促進する際に重要なCD26の機能部位の同定・シグナル伝達などの詳細なメカニズムの解明を行う。また浸潤・転移モデルとしてマウスでのin vivo評価系を確立して次年度に備えたい。栄養飢餓条件における生存能の促進作用については、アポトーシスやネクローシス関連因子群や、Akt・ERKといった各種生存シグナル等を解析し、詳細なシグナル経路・関連分子の解明にあたる。以上2方向から、CD26が悪性中皮腫の浸潤・転移を促進するメカニズムを解析し、論文としてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、CD26が細胞接着・浮遊増殖能を変化させる際に関与している分子群を解明する際に、細胞膜表面の著しい発現変化がみられた分子群を、様々な細胞表面タンパク質のフローサイトメトリーやウエスタンブロットによってスクリーニングする予定であった。そのため、数多くのフローサイトメトリー・ウエスタンブロット用の抗体が必要になると考えていた。しかし、研究を進める中で比較的初期の段階で、CD26の発現レベルとperiostinの分泌・転写レベルが一貫して相関していることが明らかになったため、まずはCD26とperiostinの関わりにフォーカスを当てて研究を行った。そのため、思ったよりも少額の支出となった。
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次年度使用額の使用計画 |
①申請者は、CD26とperiostinのタンパク質レベルでの相互作用が悪性中皮腫の浸潤・転移を促進している可能性を見出している。そこで本年度からは、その相互作用に関与しているCD26とperiostinの機能部位や、シグナル経路などの同定を行う。その為、各種機能阻害抗体やシグナル伝達経路の抗体・阻害剤などの試薬の購入に使用予定である。更に、in vivoの系において浸潤・転移モデルの作成を行う予定であるため、マウスの購入にも使用する。 ②CD26発現株が軟寒天培地培養法におけるコロニー形成能を促進する原因として、栄養飢餓条件下における生存能の亢進を見出している。そこで、CD26が生存能を亢進するメカニズムの解析を行うため、生存やアポトーシスに関わるシグナル伝達経路の抗体や、その他この経路との相互作用が見出された新規分子に対する抗体・阻害剤・siRNA等の試薬の購入に使用予定である。
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