研究課題
マイクロRNA(miRNA)は、タンパク質をコードしない機能性小分子RNAであり、標的となるメッセンジャーRNAのタンパク質への翻訳を抑制する。血液細胞分化においてNotchシグナルは、T、B細胞の運命決定を制御し、また、T細胞性リンパ芽球性白血病(T-ALL)では、約半数で受容体Notch1に変異が認められる。本研究課題ではNotch1の発現を制御するmiRNAを、ライブラリーから網羅的に探索した。Notchが接着分子として機能することに着目し、miRNAライブラリーからの候補miRNAの選択法を構築した。T-ALL細胞にライブラリーを導入し、NotchリガンドDll4を過剰発現させた間質細胞上で1時間培養し、浮遊している細胞を回収した。Notch受容体の発現量が低下した細胞は浮遊すると予想される。6つのmiRNAが得られ、ルシフェラーゼ遺伝子をNotch1発現のレポーターとして解析を行った結果、1つのmiRNA(以下、miR-X)に再現性をもって抑制効果が認められた。miR-XがDll4への接着力を低下させるのかを検討するために、T-ALL細胞にmiR-Xを過剰発現させ、Dll4への接着効率を評価した。miR-Xの導入により、T-ALL細胞のDll4への接着効率は約50%低下した。次に、miR-Xの生理的な意義を検証するために、骨髄移植法を行った。マウス骨髄より、分化マーカー陰性の造血前駆細胞を純化し、miR-Xを遺伝子導入した後、レシピエントマウスに移植した。移植後2週で骨髄細胞を回収し、B細胞分化をフローサイトメトリにより評価したところ、miR-Xを導入した造血前駆細胞の約80%が、B細胞に分化していることが分かった。Notchシグナルは、T細胞への分化を促進し、B細胞への分化を抑制する。このことからmiR-Xは、造血前駆細胞においてNotch1の発現を低下させることで、造血前駆細胞のB細胞への分化を促進したのではないかと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
ライブラリーから目的の候補miRNAを同定することに成功しており、また、その生体内における機能解析に着手するに至っている。また、候補miRNAは機能的にも目的のmiRNAであると示唆される実験結果を得ている。つまり、Notchを介した接着の抑制効果、Notch1発現のレポーター遺伝子の発現の抑制である。これらの結果は、申請者の提案し、実施した、Notch抑制性miRNAの探索法が有効であったことを示唆している。交付申請書には、得られた候補miRNAのノックダウンマウスを作製することが記述されている。これについても、候補miRNAを吸収することでその機能を抑制するSpongeマウスの作製を実際に試みた。しかしながら、キメラマウスのキメリズムは一般的にみても十分であったにも関わらず、変異体を獲得するに至っていない。これは、導入したコンストラクトが発生に影響している可能性が高いと考えられる。しかしながら、骨髄移植法を用いたGain-of-function解析の結果は良好であり、候補miRNAの生体内における効果は、目的のmiRNA(Notch1を抑制するmiRNA)が発揮すると予想される効果を再現するものであった。
Sponge法による候補miRNAのノックダウンマウス作製には成功していない。そこで現在、CRISPR/Cas9法を活用した候補miRNAの欠損マウス作製を計画している。すでに標的配列の探索を行っており、有効であると思われる配列の同定に至っている。申請者の所属研究室では、これまでにCRISPR/Cas9法を利用したmiRNA欠損マウスの作製に成功している。CRISPR/Cas9法によるmiRNAの欠損マウスの作製は、標的配列の選択が適切であれば、ホモ欠損マウスの作製が可能であり、非常に迅速である。約3ヶ月で欠損個体の解析に至るため、研究遂行上、時間的にも十分に目標の達成が可能である。候補miRNAは、Notch1を抑制すると考えられるが、近年、単一miRNAが複数の標的遺伝子の発現を同時に制御することの重要性が注目されている。したがって、本研究においてもNotch1以外の標的遺伝子の探索を行う予定である。候補miRNAをマウス骨髄より純化した造血前駆細胞に導入し、試験管内での培養後、あるいはマウスへの移植後に、どのような遺伝子群の発現が変化するかをマイクロアレイを用いて解析する。また、T-ALL由来細胞株においても同様の解析を予定している。
作製したキメラマウスの繁殖や維持に予算の執行を予定していたが、目的のマウスの作製に実験的支障が生じたため、次年度使用額が発生した。
当初、目的としていたキメラマウス作製を、他の方法により代替するため、その作製費用、マウスの飼育・維持費用に充てる予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)
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