オートファジーは、細胞内で異常な蛋白質の蓄積を防いだり、栄養環境が悪化したときに蛋白質をリサイクルするための機構であり、小胞体ストレス応答は、ストレスに適応することで細胞死を回避するための防御機構である。昨年度は、悪性中皮腫の生存・増殖、抗がん剤抵抗性における小胞体ストレス応答、オートファジーの役割およびその分子メカニズムを解明することを目的として、悪性中皮腫細胞株と培養中皮細胞を用いてLC3蛋白質のウエスタンブロッティングを行い、多くの悪性中皮腫細胞株では、培養中皮細胞と比較して、LC3が強く発現しオートファジーが活性化していることを見出した。本年度は、RFP-LC3融合蛋白質を発現する悪性中皮腫細胞株を作製して、細胞内のオートファゴソームの局在や動態を経時的に観察した。通常の培養条件においても、細胞質内に多数のオートファゴソームの形成(赤色ドット)がみられ、オートファジーが恒常的に活性化していることが分かった。RFP-LC3融合蛋白質を発現する悪性中皮腫細胞株をポリコーム群タンパク質複合体阻害剤やAKT阻害剤で処理すると細胞増殖、生存が抑制されるが、オートファジー阻害剤(ヒドロキシクロロキン、3-メチルアデニン)で処理しても細胞増殖、生存が抑制された。悪性中皮腫細胞では、恒常的にオートファジーが活性化していて、細胞の増殖、生存に深く関与していると考えられる。また、悪性中皮腫の細胞増殖・細胞運動能に深く関与する細胞接着分子を高発現する悪性中皮腫細胞株では、低発現悪性中皮腫細胞株と比較して、オートファジー阻害剤の細胞増殖抑制作用に抵抗性を示す傾向がみられた。悪性中皮腫に十分な致死効果を与えるためには、オートファジー阻害剤に抗がん剤などを併用することが必要と考えられる。
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