研究課題/領域番号 |
26830121
|
研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
牧野嶋 秀樹 独立行政法人国立がん研究センター, 早期・探索臨床研究センター, 研究員 (30510573)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 融合遺伝子 / RET / 薬剤耐性 / がんの代謝 |
研究実績の概要 |
RET融合遺伝子が肺腺がんのドライバーがん遺伝子であり、マルチターゲット阻害剤バンデタニブがRET融合遺伝子陽性肺腺がん細胞の有望な分子標的薬となることを前臨床試験で実証した。特異性の高いRET遺伝子ノックダウンとバンデタニブ処理にはAKT経路の抑制に相違が見出され、バンデタニブによる高い抗腫瘍効果はRET阻害に加え、未知チロシンキナーゼを同時に阻害することに起因すると示唆された。そこで、RET融合遺伝子陽性肺腺がんに特異的なバンデタニブターゲット分子を明らかにし、バンデタニブ耐性細胞株を樹立・解析し、副作用の少ないより効用の高い治療法開発を目指している。 当初は、平成26年度にバンデタニブのRET以外のターゲットを同定を目指していたが、これまでに明らかな結果は得られていない。タンパク質リン酸化アレイおよびウェスタンブロットにより、バンデタニブ処理とRET融合遺伝子のノックダウンを比較したが、再現性のある結果が得られなかった。そこで、先にRET融合遺伝子陽性肺腺がんLC2/ad細胞株を用いたin vitro 培養系におけるバンデタニブ耐性細胞株を樹立を試みた。予想外にも、バンデタニブに耐性なLC2/ad細胞株は数か月の連続した薬剤処理の培養で得られ、現段階でもバンデタニブに対するIC50で10倍程度高った。次年度は、引き続きバンデタニブのRET以外のターゲットを同定と、バンデタニブ耐性株と感受性株の分子プロファイルを比較し、バンデタニブ耐性の分子機序を解明する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目標は、1.バンデタニブのRET以外のターゲットを同定、2.LC2/ad細胞株および臨床検体を用いてバンデタニブターゲット候補を検証、3.バンデタニブ耐性細胞株の樹立と分子プロファイルの作製、の3つである。 バンデタニブのRET以外のターゲット同定は難航している。タンパク質アレイや他グループからの発表を参考に、ターゲットタンパク質の候補は複数あるが、ウェスタンブロット等の他手法により現在まで確認ができていない。それに比べ、当初次年度に計画していたバンデタニブ耐性株の取得は順調に進行しており、複数の耐性株プールが手元にある。もし、バンデタニブ耐性に寄与する受容体チロシンキナーゼ等が判明すれば、バンデタニブのRET以外のターゲット候補の選定にも大いに参考となる。臨床検体を用いてのバンデタニブターゲット候補検証は、RET陽性肺腺がん症例が希少である点と、リン酸化抗体を使用した組織免疫染色法の技術的な問題で進んでいない。これまでの進捗状況を勘案すると、順調に進行しているバンデタニブ耐性細胞株の研究を中心に、今後の研究を推進する計画が妥当である。
|
今後の研究の推進方策 |
現段階で樹立されているバンデタニブ耐性株を使用し、より薬剤耐性の強い細胞株の樹立と、クローニングを行い遺伝学的に均一な細胞集団に分割する。さらに、バンデタニブ耐性株と感受性株の分子プロファイルを比較し、バンデタニブ耐性の分子機序を解明する。次世代シーケンサーを用いて全ゲノム解析、RNASeqとマイクロアレイによる遺伝子発現解析、プロテオーム解析を用いたリン酸化タンパク質解析、メタボローム解析を利用した代謝産物解析を行い、バンデタニブ耐性と感受性細胞株間で網羅的にオーミクス解析を行う。必要があれば、解析を企業に依頼する。さらに、バンデタニブ(-/+)の実験条件で代謝産物プロファイルを作製し、RET融合遺伝子陽性肺腺がん細胞特有の代謝産物、バンデタニブに対する感受性の相違による代謝産物の変化を、メタボロームおよびフラックスアナライザーで同定・解析する。また、バンデタニブ耐性が薬剤排出能力の違いにより生じている可能性を検証する目的で、フローサイトメトリーを用いて、サイドポピュレーションを検出する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
RET陽性肺腺がん細胞株およびバンデタニブ耐性細胞株の細胞培養が中心であったため、物品費の使用が当初の計画よりも抑制できた。バンデタニブ耐性株の分子プロファイル作製には、予算に余裕をもって、解析に臨みたいため、残額を繰り越し次年度に計画している網羅的解析に備えた。
|
次年度使用額の使用計画 |
オーミクス解析に必要な試薬は比較的高額であり、特にメタボローム解析は特殊な技能を保持した企業に解析を依頼する。これら経費に、繰越金のすべてを使用する計画である。計画しているオーミクス解析をすべて行うことができる予算額ではないので、最も重要な解析から順次行う。
|