RET融合遺伝子が、肺腺がんのドライバーがん遺伝子であり、マルチターゲットチロシンキナーゼ阻害剤バンデタニブが、RET融合遺伝子陽性肺腺がん細胞の有望な分子標的薬となることを、我々は前臨床試験で実証してきた。特異性の高いRET遺伝子ノックダウンとバンデタニブ処理にはAKT経路の抑制に相違が見いだされ、バンデタニブによる高い抗腫瘍効果はRETに加え、未知チロシンキナーゼを同時阻害すると仮説を立て、標的チロシンキナーゼをこれまで探索してきた。また、初年度までに得られたバンデタニブ耐性細胞を用いて、引き続き解析を行った。 RET融合遺伝子陽性の肺腺がん細胞株LC2/adを用いて、バンデタニブに耐性となった細胞株を樹立し、ゲノム、遺伝子発現、タンパク質、代謝産物の解析を行い、薬剤耐性時の分子レベルの変化を同定することを試みた。我々は、シングルセルレベルでの遺伝子発現解析を行い、細胞集団中の不均一性を明らかにし、論文として発表した。RETを含むがん関連遺伝子の発現パターンは、通常の培養下では細胞間での多様性は潜在しているが、一度薬剤で処理を行うと、すぐに明確な細胞間での多様性が観察された。これらの結果は、細胞集団の平均値を測定する実験系だけではなく、単一細胞レベルで遺伝子発現を解析することにより、これまで違う新たな薬剤耐性機構の存在を示唆している。 RET融合遺伝子陽性肺腺がんに対するバンデタニブの臨床試験の結果も明らかになってきており、今後新規治療を開発する上で、バンデタニブへの薬剤耐性化の研究は、重要になると考えられる。
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