本研究は、様々ながんで10-50%と非常に高頻度に変異・異常のあるクロマチンリモデリング関連遺伝子に着目し、それらの遺伝子と合成致死性を示す遺伝子を探索する研究である。平成27年度において、HCT116 ARID1A-WT/ARID1A-KO細胞を用いて、ARID1A-KO細胞に特異的に増殖抑制を示す化合物Xを同定した。化合物Xは、ARID1A変異卵巣がん細胞株に対してin vitro細胞株モデルおよびin vivo移植腫瘍モデルいずれにおいても合成致死性を示した。平成28年度において、化合物XがなぜARID1A欠損細胞に特異的に増殖抑制効果を示すかについて検討した。HCT116 ARID1A-WT/ARID1A-KO細胞を用いて、化合物Xを処理したときの遺伝子発現変動を調べるために網羅的発現解析を行った。この解析の中で、ARID1A-KO細胞で特異的に発現変動する遺伝子についてパスウェイ解析を起こったところ、アポトーシス経路と関連があることが分かった。実際に、ARID1A-KO細胞に化合物を処理するとアポトーシスを誘導するがARID1A-WT細胞ではアポトーシスが誘導されることが分かった。これらのことから、化合物XはAIRD1A欠損細胞に特異的にアポトーシスを誘導することによって特異的な増殖抑制作用を示すことがわかった。網羅的発現解析において、ARID1A-WTで遺伝子発現変動し、ARID1A-KO細胞では遺伝子発現変動が有意に見られない遺伝子についてパスウェイ解析を行った結果、ある代謝経路と関連があることが分かった。即ち、ARID1A-WTでは化合物Xによりその代謝経路が活性化するが、ARID1A-KO細胞では活性化されなかった。以上のことから、ARID1Aによる、この代謝経路の機能的制御が化合物Xの特異性を決定的にしていることが考えられた。
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