研究課題/領域番号 |
26830127
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
相原 仁 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (80587717)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / リン酸化 / ユビキチン化 / 生殖細胞 / 癌化 |
研究実績の概要 |
ヒストンのメチル化、リン酸化、ユビキチン化などの化学修飾は、遺伝子発現制御に関わるエピジェネティックファクターである。近年、このヒストン修飾部位や、修飾を触媒する酵素自体のミスセンス、ナンセンス変異、すなわちエピジェネティック異常が癌化に関与することが報告されている。ヒストンH2AのC末端部位119番目のリジン残基のユビキチン化(ubK119-H2A)は、ポリコーム複合体によってなされ、転写抑制を制御している。我々は、隣120番目のスレオニン残基のリン酸化(pT120-H2A)がVRK1キナーゼによってなされ、ubK119-H2Aと拮抗し、転写活性化をもたらすことを発見している。さらにH2Aリン酸化模倣体を過剰発現させたNIH3T3細胞をヌードマウスに注射すると、腫瘍形成することも見出している。また、vrk1ノックアウトマウスでは雌雄ともに不妊であることが他のグループによって報告されている。以上のことから、ubK119-H2AとpT120-H2Aのバランス異常が癌化や不妊の原因であるという仮説を立て実証を試みた。 2014年度に得られた結果は以下のとおりである。癌患者や樹立細胞の全ゲノムシーケンスを行った英国サンガーセンターのCOSMIC公開データベースを利用し、H2AのC末端部分のミスセンスおよび欠失変異体の情報を得た。これら変異体の腫瘍形成能をヌードマウスを用いて調べた結果、非ユビキチン化H2A変異体でも腫瘍形成が起きることを見出した。また、ユビキチン化、リン酸化の周辺残基の変異体もいくつか腫瘍形成を起こすことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2014年度4項目の達成状況として、遅れている項目1、計画を方針転換し予想以上の結果が出た項目2、予定通りの項目3、未完了の項目4を考慮して、自己評価3とした。 1、VRK1結合因子の証明が未完了であるが、達成目標の一つ、siRNAを用いたVRK1ノックダウンによる細胞増殖低下の回復実験のため、siRNA耐性型VRK1発現ベクターを作成した。野生型VRK1により細胞増殖率は回復するが、kinase-dead型VRK1では回復しなかった。この結果は、VRK1のリン酸化活性と細胞増殖維持の関係性を示す。 2、癌化を誘導するVRK1変異体の探索は、公開データベースに登録されているVRK1変異の情報を活用し、変異体の発現コンストラクトを作製した。現在、これらVRK1変異体の発癌誘導活性について、ヌードマウスを用いて確認中である。さらに発展的実験として、H2A変異体でも同様の実験を行っており、非ユビキチン化H2A変異体や周辺部位の変異体でも癌化を誘発することを確認した。この興味深い結果から、癌化誘導の分子メカニズムの解析を準備中である。 3、VRK1標的遺伝子におけるChIP解析を行い、pT120-H2Aに拮抗しubK119-H2Aの修飾を担うE3ユビキチンリガーゼとしてRing1BやDZIP3を見出した。これら2つをノックダウンすると、VRK1標的遺伝子の発現が上昇することも確認した。Ring1BについてはChIP-seqも行い、現在VRK1のChIP-seqデータと合わせて解析中である。 4、vrk1ノックアウトマウスの作製はできているが、このマウスが不妊であるため、vrk1およびusp21ダブルノックアウトマウスの作製には複数回の交配が必要となり、現在最終段階の交配を行っているが、ダブルノックアウトマウスの出生率が著しく低く、同腹および同性解析の困難が生じている。引き続き交配を続けることと、妊娠後に胎児の解析を行うことも検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、2014年に得られた結果から、主にVRK1変異体やヒストンH2A変異体による発癌誘導の分子メカニズムの解析を以下の3つの実験系を用いて行う。 1、ヌードマウスで形成された腫瘍を摘出し、タグを付加したVRK1やH2A変異体を発現させた細胞をFACSソーティングし、発現低下する癌抑制遺伝子や発現上昇する癌遺伝子をRNA-seqを用いて見出し、これらの遺伝子発現をコントロールするクロマチン修飾酵素(H2Aユビキチン化を担うポリコーム転写抑制複合体PRC1、同じくH3K27メチル化を担うPRC2、H2Aリン酸化のVRK1)やヒストン修飾に対する抗体を用いてChIP-seqを行い、VRK1やH2Aの変異体がどのように直接クロマチン上でエピジェネティクス攪乱をもたらすかを調べる。 2、培養細胞を用いて、タグを付加したVRK1やH2A変異体を発現させた細胞を発現させ、上記クロマチン修飾酵素のクロマチンへのリクルートやヒストン修飾が、どのように変化するかについて、細胞全体でグローバルに、あるいは局所的な(VRK1やH2A変異体が結合する周辺のヌクレオソーム)視点で、免疫沈降やウエスタンブロット解析を用いて調べていく。 3、上記1、2の実験から考察された分子メカニズムをin vitroで実証するため、精製したヒストンを用いて作製した人工的なヌクレオソームの場で、変異ヒストンH2AやVRK1がクロマチン修飾酵素のリクルートやヒストン修飾動態にどのような影響があるかを実証する。そのため我々はすでに精製したPRC1を用いたH2Aのユビキチン化を行うin vitroシステムを構築しており、現在PRC2の精製も試みている。
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