研究課題
DNA損傷の中でも、DNA の相補鎖間が共有結合で架橋される「DNA 鎖間架橋(ICL)」は、二重鎖 DNA の一本鎖への開裂を阻害するため、細胞毒性が極めて高い。ヒトをはじめとする高等真核生物では、遺伝性疾患として知られるFanconi anemia(FA)の原因遺伝子産物群によりICLが修復されることがこれまで明らかになっている。DNA 複製の際に複製装置が ICLで停止すると、2つのFA原因遺伝子産物からなるFANCI-FANCD2複合体がモノユビキチン化され、ICLに集積する。モノユビキチン化されたID複合体は、FAN1ヌクレアーゼをリクルートし、ICL除去反応を触媒すると考えられているが、その分子メカニズムは全く明らかになっていない。本研究目的は、ICL修復反応の中心的な過程であるFAN1によるICLの除去機構を、生化学的・細胞生物学的手法によって明らかにすることである。平成26年度の研究では、まずFAN1の生化学的機能解析を行うため、大腸菌を用いてFAN1を高純度かつ大量に精製する系を確立した。続いて、精製したFAN1タンパク質と停止した複製フォークを模した5’ flapped DNAを用いて、FAN1のヌクレアーゼ活性を評価する実験系を確立した。この解析系の確立により、5’ flapped DNAにおけるFAN1の切断点を同定した。停止した複製フォークの単鎖領域にはRPAが集積することが知られているため、次に5’ flapped DNAにRPAが結合した基質を作製し、その基質におけるFAN1のヌクレアーゼ活性を解析した。その結果、FAN1はより生理的な環境を模したこのDNA基質も同様に認識し、切断できることが明らかになった。これらの解析から、FAN1の基質認識機構の一端を解明した。なお、この成果は、「Journal of Biochemistry誌」に申請者を共同第一著者として発表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、FAN1によるICLの除去機構を生化学的・細胞生物学的手法によって明らかにすることである。本研究の初年度となる平成26年度では、以下2点の生化学的解析を計画した。(1) FAN1をリコンビナントタンパク質として精製し、FAN1のヌクレアーゼ活性を評価する実験系を確立する。(2) 精製したID複合体を試験管内でモノユビキチン化し、精製する。精製したID複合体を複製フォーク様DNA基質に結合させ、その後FAN1を添加することで、ユビキチン化ID複合体とFAN1によるDNA切断活性を解析する。本研究ではいずれの計画も遂行することができた。(1)の解析では、計画に加え、より生理環境に近いDNA基質を用いてFAN1の機能解析を行い、その成果を論文として発表した。また、FAN1の基質認識に重要なアミノ酸を変異体解析により同定した。(2)の解析では、モノユビキチン化したID複合体がDNA基質に結合することより、FAN1のヌクレアーゼ活性が強く阻害されることが明らかになった。また、精製タンパク質を用いたプルダウン法により、FAN1はそのN末端372アミノ酸の領域で、ID複合体に直接相互作用することが明らかになった。更に、FANCD2及びFANCI変異体を用いて詳細な生化学的解析を行ったところ、ID複合体中のFANCD2のDNA基質への結合が、FAN1のヌクレアーゼに阻害的であることが明らかになった。これらの解析から、FAN1はID複合体と同時に5’ flapped DNAを認識し切断することができないことを明らかにした。上記の解析の他に、本研究では平成27年度に計画していたモノ・ジ・トリヌクレオソーム基質の作製を完了させた。今後は、これらのクロマチン基質を用いて、FAN1のクロマチン上における活性を解析する予定である。以上のように、本研究の進展は順調に進展していると言える。
平成26年度は、裸のDNAにおけるFAN1の生化学的解析を行った。平成27年度は、モノヌクレオソームとクロマチン基質を用いて、クロマチン上におけるFAN1の活性を解析する予定である。まず、調製したモノ・ジ・トリヌクレオソームとFAN1を混合し、ヌクレオソーム上におけるFAN1のDNA切断活性を解析する。FAN1のヌクレアーゼ活性は、平成26年度に確立した解析手法を用いて行う。次に、ID 複合体のヒストンシャペロン活性が、FAN1 のヌクレアーゼ活性に及ぼす影響を解析するため、まずジまたはトリヌクレオソームを用いて ID 複合体をモノユビキチン化する。その後、FAN1とコアヒストンをこの系に添加し、FAN1のDNA切断活性を解析する。一方、これまでの解析で、昆虫細胞から精製したFAN1は特定の5箇所がリン酸化されることを見いだしている。特定のリン酸化酵素を用いた試験管内リン酸化反応でも、FAN1の同じ箇所が修飾されることを平成26年度の解析で明らかにしている。平成27年度では、このFAN1の翻訳後修飾が、自身の細胞内局在及び、 ICL 修復に及ぼす影響解析するために、まず FAN1 がノックアウトされたニワトリ DT40 細胞株を作製する。その後、リン酸化部位をアラニンに置換したニワトリ FAN1 をノックインする。この細胞株を用いて、ICL 損傷依存的な FAN1の核内フォーカスの形成効率を解析する。次に、同細胞株のICL 感受性をコロニー形成アッセイにより解析し、この翻訳後修飾の ICL 修復における役割を解析する。並行して、平成26年度の変異体解析で得た、エクソヌクレアーゼ活性のみを持たないFAN1変異体を、FAN1ノックアウトDT40細胞に発現させ、FAN1のエクソヌクレアーゼ活性の意義について解析する。以上の解析により、FAN1とID複合体によるICLの切り出し機構のモデルを構築する。
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The Journal of Biochemistry
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