研究課題
ヒストン修飾によるクロマチン構造変化は遺伝子発現を後天的に制御し、多因子性疾患発症の鍵となる。本研究では、脂肪細胞において高発現しa-ケトグルタル酸生合成に関わるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ (IDH) に焦点をおき、細胞の代謝がどのような作用機序でエピゲノムを制御するかを解明することを目的とする。3T3-L1脂肪細胞分化過程におけるトランスクリプトーム解析により、IDH3a, IDH3b, IDH3g遺伝子発現が誘導されることが明らかになった。IDH酵素活性測定・メタボローム解析から、分化過程においてIDH3活性が増加し、ヒストン脱メチル化酵素の補酵素として使われるa-ケトグルタル酸が3倍上昇することを見出した。IDH3bをノックダウンすると、Ppargならびに脂肪細胞分化マーカー (Fabp4, Adipoq, Cd36) の発現には影響を及ぼさないにも関わらず、a-ケトグルタル酸が上昇せず、解糖系遺伝子 (Slc2a4, Hk2) の発現誘導がおこらず、脂肪蓄積を抑制された。一方IDH1またはIDH2のノックダウンでは、解糖系遺伝子発現、脂肪蓄積に変化はなかった。未分化の脂肪細胞において、解糖系遺伝子には転写抑制のヒストン修飾H3K9me2が認められ、分化に伴いH3K9me2は消失し遺伝子発現が誘導された。さらに、IDH3a, IDH3b, IDH3gはそれぞれ相互作用し、複合体を作ることにより安定化され、ミトコンドリアに局在する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
トランスクリプトーム解析から、解糖系遺伝子をはじめとするIDH3により発現制御される遺伝子群を網羅的に同定することに成功した。また、メタボローム解析とIDH酵素活性測定から、IDH3が脂肪細胞分化に伴うa-ケトグルタル酸上昇に寄与していることを突き止めた。さらに、IDH3により制御されるヒストン修飾の候補として、転写抑制のヒストン修飾であるH3K9me2を見出した。したがって本研究の目的の約半分はすでに達成されており、順調に進展している。
IDH3により制御されるヒストン修飾の候補として、転写抑制のヒストン修飾であるH3K9me2を見出していることから、分化過程あるいはIDH3bノックダウンにおけるH3K9me3のゲノムワイド解析をChIP-seqにより行う。またsi-RNAよるスクリーニングにより、IDH3により活性調節されるヒストン脱メチル化酵素を同定し、その脱メチル化酵素の局在をChIP-seqにより解析する。さらに核・ミトコンドリアのIDH3の局在、a-ケトグルタル酸レベルを測定し、a-ケトグルタル酸の細胞内分布制御について基礎知見を得る。
当該年度に予定していたChIP-seq解析の一部を、次年度に行うことになった。
細胞培養器具、メタボローム解析試薬、分子生物学試薬、生化学試薬、高速シークエンサー試薬の購入に使用する。また成果発表旅費、論文投稿料に使用する。
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J Biol Chem
巻: 290 ページ: 4163-4177
doi: 10.1074/jbc.M114.626929
Nat Commun
巻: in press ページ: in press
http://www.lsbm.org/news/2014/1226.html