最終年度である平成29年度は、結果の取りまとめ作業として各地の野外調査および標本庫の調査で得られた分布情報を取りまとめ、日本産ハナシノブ属植物の詳細な分布図を作成した。また、標本の形態測定を行い、昨年度までで得られた集団構造のデータと比較して、遺伝的分化に対応した形態的分化がないかを検討した。その結果、一部の系統群では葉のサイズが小型化している傾向が見いだせたが、全体としてはその形態的差異は連続的であった。加えて、一部のサンプルについてショットガンスーケンスによる大量の塩基配列の取得を行い、葉緑体ゲノムの解読の基礎データを得た。 研究全体を通した成果としては、標本データに基づく日本産ハナシノブ属の詳細な分布図を作成し、その生育地の現状を明らかにできた。その上で、大量の一塩基多型データを用いて系統関係を明らかにした上でその集団動態の考察を行った。これらの情報は属レベルで絶滅が危惧されている日本産ハナシノブ属植物の保全や管理単位の検討の基礎データになると同時に広域的な保全策の策定に役立つものと考えられる。一方で、適応に関連したマーカーの探索は十分なデータが得られなかったこともあり、詳細な検討はできなかった。生育地改変による各系統群への影響評価については、生育地によって状況が様々であるため一括した議論は難しいが、九州に隔離分布する系統では近年の明らかな生育地の減少が確認された。その他の場所については定量的な評価法を再検討する必要がある。
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