研究課題/領域番号 |
26840003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 広介 筑波大学, 医学医療系, 助教 (90466673)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ゲノム安定性 / 遺伝子 / クロマチン / ユビキチン / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
本研究では、E3ユビキチンリガーゼ複合体の基質認識サブユニットVprBPによるヒストンH1ユビキチン化修飾を介したゲノム安定性制御機構を明らかにすることを目的としている。これまでヒト骨肉種由来のU2OS細胞においてsiRNAによるVprBPの発現抑制を行うと、DNA複製の異常とDNA損傷の蓄積が観察されることを明らかとしている。細胞をDNAトポイソメラーゼI阻害剤であるカンプトテシン、あるいはリボヌクレオチド還元酵素阻害剤ハイドロキシウレアで処理してDNA損傷を引き起こすと、ヒストンH1のユビキチン化が促進された。またこの時、DNA損傷応答シグナルにおいて重要なリン酸化酵素ATM/ATRの阻害剤であるカフェインを同時に添加すると、ヒストンH1のユビキチン化は抑制された。またこのDNA損傷依存的なヒストンH1ユビキチン化はVprBPのKDにより抑制された。以上の結果から、ヒストンH1ユビキチン化はDNA損傷応答シグナルの下流でVprBP依存的に促進されることが明らかとなった。DNA複製に付随したDNA2本鎖切断部位では、ヒストンH2Aなどがユビキチン化され、これが相同組換え修復に関わるタンパク質のDNA損傷部位への集積に必要であることが明らかとなっている。しかし、ヒストンH2Aのユビキチン化酵素とは異なり、VprBPがDNA損傷部位に集積する様子は観察されなかった。そこでVprBPが相同組換え修復関連遺伝子の転写に関わるかを検証したところ、VprBPのKDによりRad51やBRCA1などの転写が大きく減少することが明らかとなった。またこれら相同組換え修復関連遺伝子の転写は、ヒストンH1のKDによっても減少した。以上の結果より、VprBP依存的なヒストンH1ユビキチン化は、DNA組換え修復遺伝子の転写活性化を介して間接的にゲノム安定性維持に関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はヒストンH1のユビキチン化がDNA損傷応答シグナルカスケードの下流で促進されることを明らかとした。またVprBPおよびヒストンH1が、DNA組換え修復遺伝子の転写制御に関わることを明らかにした。本研究計画では、当初よりVprBPによるヒストンH1ユビキチン化が直接的にDNA複製後のDNA修復に関わる可能性と、遺伝子発現制御を介して間接的にDNA修復に関わる可能性の2通りの仮説を提唱していた。これまでの実験結果は、決して前者の経路の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いことを強く示唆するものである。このように今後の研究計画について優先順位を決定して方向性を絞り込むことが出来たことから、平成26年度の進捗状況は概ね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、VprBPによるヒストンH1ユビキチン化が相同組換え修復関連遺伝子の転写制御を介して間接的にDNA修復に関わる可能性が示唆された。このような経緯から、平成27年度はVprBP依存的なヒストンH1ユビキチン化が、相同組換え修復関連遺伝子クロマチンにおいて転写活性化を促進するメカニズムの解析を重点的に行う。 (1)ユビキチン化ヒストンH1特異的な抗体の作製:VprBP依存的にユビキチン修飾が導入されるヒストンH1リジン残基を質量分析法により同定する。同定したリジン残基にユビキチンを導入したペプチドを作製し、これをウサギなどに免疫する。得られた抗血清からアフィニティー精製でユビキチン化ヒストンH1抗体を精製する。 (2)VprBPによる相同組換え修復遺伝子のクロマチン構造制御:U2OS細胞でVprBPをKDし、相同組換え修復関連遺伝子クロマチンにおけるヒストンH1ユビキチン化の変化を検討する。また一連の転写に関連するヒストン修飾への影響、転写因子の結合なども検討する。 (3)ヒストンH1ユビキチン修飾の分子機能の解析:ヒストンH1ユビキチン化修飾が転写関連因子のリクルートに関与する可能性を探るため、ユビキチン化ヒストンH1に特異的に結合性が変化するタンパク質を同定する。またユビキチン修飾がヒストンH1のクロマチン結合性に与える影響について、再構成クロマチンを用いた生化学的解析、およびFRAP法をベースとしたクロマチンの核内動態解析により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度はVprBP依存的なヒストンH1ユビキチン化が直接的にDNA修復(相同組換えや非末端結合修復など)に関わるかを検討する実験を複数計画していた。しかし、これまでの研究結果から、VprBPによるヒストンH1ユビキチン化が遺伝子発現制御を介して間接的にDNA修復に関わる可能性が示唆された。このような経緯から、平成26年度のDNA修復への影響を検討する実験計画の一部は、優先順位的に下位に回ったため実施しなかった。一方、平成27年度の実験計画に、相同組換え修復関連遺伝子の転写メカニズムを詳細に解析するための実験を追加する必要が出てきた。以上の理由から、平成26年度の一部の実験計画のために計上していた予算は平成26年度は執行せず、その分を平成27年度に新規に追加する実験計画の予算に当てることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、VprBPが相同組換え修復関連遺伝子のクロマチン構造に与える影響について詳細に解析する必要が出てきたため、これを新規の実験として追加する。具体的には、相同組換え修復遺伝子のクロマチンにおいて、VprBPのKDが転写に関連するヒストン修飾、およびこれらの遺伝子の転写制御に関わる転写因子の結合にどのような影響を与えるかについて、クロマチン免疫沈降法により検討する。この実験では複数のクロマチン免疫沈降用の抗体を購入する必要があり、平成26年度の次年度使用額は主にこの抗体購入費に計上する予定である。
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