本研究では①「新規tRNA成熟経路に関与する輸送因子および成熟経路の選択機構の解明」と②「tRNA前駆体の5’キャップ修飾の生合成と機能の解析」の2つのテーマについて出芽酵母を用い解析を行った。 ①については平成26年度において、輸送因子候補の中に発現抑制によりtRNA成熟化異常が起こる因子を見出し、平成27年度では、この輸送因子がtRNA前駆体と生体内において相互作用していることを確認した。また、成熟経路の選択機構については、平成26年度では、これにtRNA修飾が関与していることが示唆され、平成27年度では、この修飾と先述の特定した新規輸送因子との遺伝的相互作用について解析を行った。 ②については、この現象をpre-tRNA キャッピングと命名し解析を行った。平成26年度では、その生合成について解析を行い、mRNAなどの5’キャップ形成を担う既知の酵素群が必要であることが判明した。また、5’キャップの形成率がtRNA前駆体の末端構造の固さと関連していることを明らかにした。平成27年度では、RNA pol IIIの温度感受性株を用い、5’キャップ修飾されるtRNA前駆体はRNA pol III転写産物であることを確認した。また、野生株におけるtRNA前駆体の5’キャップの修飾率を算出した。平成27年度はその機能について解析を行い、5’キャップ形成を阻害するとtRNA前駆体の蓄積量が顕著に減少することが分かり、これが分解酵素によるものであることを突き止めた。また、ヒトのtRNA前駆体の一部が5’キャップ修飾を持っていることを抗キャップ抗体を用いたIP-ノーザン解析から確認した。これら結果から、pre-tRNA キャッピングは成熟過程のtRNA前駆体を分解から保護することで成熟化をサポートしていることが示され、真核生物においては広く保存された機構であることが示唆された。
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