研究課題/領域番号 |
26840019
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大嶋 篤典 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 准教授 (80456847)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 二次元結晶化 / 三次元再構成 / 極低温電子顕微鏡 / ギャップ結合チャネル |
研究実績の概要 |
ギャップ結合チャネルの開閉機構の解明を目的として、線虫が持つイネキシン6(INX-6)N末端欠失変異体の二次元結晶化に成功した。極低温電子顕微鏡で撮影した像の結晶学的解析により得られた投影像では、一つのチャネルにつき8個のピークが明確に確認され、コネキシンとは異なる可能性を強く示唆するものであった。この結果は予備実験で得られていた可溶化状態のINX-6チャネルの単粒子解析の結果と一貫性のあるものであった。また、二次元結晶の傾斜像の解析によって10Å分解能における初期三次元構造の計算に成功した。その結果、INX-6の二次元結晶は二枚の脂質二重膜から成るギャップ結合チャネル状態で形成されており、一つのヘミチャネルにサブユニットが8個、それが2つ合わさって合計16個のサブユニットに相当する密度が確認された。これにより、INX-6のサブユニットの数がコネキシンの12量体とは明確に異なることが明らかとなった。またチャネルの孔の入り口にはプラグに相当する密度が確認され、これは既に我々がコネキシンで報告した構造と非常によく似ているものであった。蛍光色素を用いた機能解析の結果、結晶化したINX-6N末端欠失変異体は透過活性を持なたない閉状態であることがわかった。したがって得られたINX-6の三次元構造は閉状態である可能性が示唆された。イネキシンはコネキシンとはアミノ酸配列の相同性がなくサブユニットの数も異なることから、これらの結果は全く異なる祖先から共通の開閉メカニズムを保有するに至る収斂進化の可能性を示唆している。現在の分解能ではプラグの密度が膜貫通領域から離れているため、今後INX-6の欠失変異を作製してINX-6のどの部分のアミノ酸がそれらの密度に寄与しているかを明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜タンパク質の構造解析に適した二次元結晶の作製は易しくない中、1年目にして投影像だけでなく、初期三次元再構成が10Å分解能で達成できた。その結果、先行して我々が報告したコネキシンとは異なるサブユニット数の構造が明らかとなった一方で、プラグについてはコネキシンと共通しているという知見を得られた。また結晶化したINX-6N末端欠失変異体の機能測定も行い、透過活性が見られなかったことから閉状態のものと思われ、立体構造におけるプラグの存在と一貫性のある結果となった。これらはイネキシンチャネルの高次構造と開閉機構に関する新規の知見であり、順調な進展と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
現在の分解能におけるINX-6の三次元構造はプラグの密度がINX-6のペプチドのどの部分に相当するかが不明であり、INX-6の別の部位を欠失した変異体と野生型の二次元結晶化を行う。この時現在と同様の二次元結晶が得られない可能性があるが、欠失残基を変化させて結晶化条件を最適化する予定である。また機能解析においては当初電気生理実験を予定していたが、これは単一膜に再構成する系のため、ヘミチャネルの測定しかできない。得られた三次元構造がギャップ結合状態であったことから、ギャップ結合チャネルとしての活性を測定する必要があり、それが可能な色素透過活性測定に切り替えて行う。構造が得られたINX-6N末端欠失変異体は閉状態であるが生理的な機能との関係を直接証明できていないため、透過活性を持つINX-6の二次元結晶化を目指す。 またconnexin26野生型についてはタンパク質の大量発現ができており、先行研究にならって二次元結晶化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はINX-6の二次元結晶化とデータ収集に注力しており、ルーチンワークが多かったため、物品の費用が多くかからなかった。また、まだ論文投稿段階に至っていないため、投稿費や英文校正費を要しなかったことが理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
引き続きINX-6の二次元結晶の極低温電子顕微鏡データ収集を行うとともに、結果がまとまりつつあるので、論文作成を手掛ける。国内外における学会で結果の発表を行う予定であり、それらの費用の支出に充てる。
|