研究課題
αヘリックスに富む正常型プリオン蛋白質(以下PrPC)から、βシートに富む異常型プリオン蛋白質(以下PrPSc)への構造遷移がプリオン病の原因と考えられている。申請者はRNAアプタマー r(GGAGGAGGAGGA) (以下R12)の立体構造及び相互作用解析により、R12の特異な四重鎖構造がPrPCを認識して結合し、異常型への遷移を妨害する抗プリオン活性を有することを明らかにした。この成果を踏まえて、本研究課題では以下の3つの計画を進行させる。1. R12とは異なる配列・トポロジーで四重鎖構造を形成するDNA及びRNAの抗プリオン活性を検証し、より高い抗プリオン活性を持つ核酸分子を探索する。2. 得られた核酸分子とプリオンタンパク質の各々の相互作用部位を明らかにし、さらに複合体の構造研究から、核酸分子が抗プリオン活性を発揮する作用メカニズムを解析する。3. 構造情報に基づいてさらに高い抗プリオン活性を有する核酸分子を創製する。平成26年度では、四重鎖構造を形成するDNA及びRNAについて、抗プリオン活性のスクリーニングを行った。抗プリオン活性の検証は、ヒトのプリオン病を感染させたマウスの神経由来の細胞GT-FK株を用いた。この細胞は恒常的にPrPScを産生する。これに四重鎖核酸を添加後、培養し、細胞抽出液中のPrPScの量を測定することで、抗プリオン活性を評価した。この結果、申請者が過去に抗プリオン活性を見出したR12分子よりも、活性の高いRNA分子を発見することに成功した。得られたRNAのCDスペクトルを測定したところ、平行型四重鎖構造を形成していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度では計画通り、四重鎖構造を形成するDNA及びRNAについて抗プリオン活性を検証した。その結果、過去に抗プリオン活性を見出したR12分子以上に活性の高いRNA分子を発見することに成功し、そのIC50を調べたところ、100 nM程であった。さらにこのRNA分子の立体構造はこれまでに報告例が無いため、RNA分子単独での構造研究をCDスペクトルの解析によって行ったところ、平行型の四重鎖構造であることを明らかにした。以上より、当該年度中に目標として設定した予定の計画は概ね達成できたとした。
抗プリオン活性の高いRNA分子を見出したが、立体構造について報告例の無いものであったため、まずRNA分子単独での四重鎖構造のトポロジーをNMR法によって決定する。次いで、RNA分子が正常型プリオンタンパク質のどの領域を認識しているのかを、生化学的及び分光学的な相互作用実験によって決定する。RNA分子と正常型プリオンタンパク質の複合体の構造研究をNMR法によって行い、抗プリオン活性の作用メカニズムを原子レベルの分解能で解析する。
抗プリオン活性のスクリーニングに用いた四重鎖核酸は、立体構造が既知のものと、立体構造の報告例が無く、配列から四重鎖構造を形成すると予想されたものとがある。スクリーニングの結果、立体構造の報告例の無いRNA分子が最も高い抗プリオン活性を示した。よって平成26年度では、まずRNA分子単独での構造研究を行う必要があった。このため、当初26年度内に行う予定であった四重鎖核酸と正常型プリオンタンパク質及びそのC末欠損体との相互作用研究を、27年度に行うこととした。よってタンパク質の調製に用いる試薬類や、精製に用いる液体クロマトグラフ用のカラムなどを27年度以降に購入するため、次年度に使用額が生じることとなった。
前述した通り、27年度中に高い抗プリオン活性を示したRNA分子と、正常型プリオンタンパク質及びそのC末欠損体との相互作用研究を行う。そのため、タンパク質の調製に用いる試薬類や、精製に用いる液体クロマトグラフ用のカラムなどを購入する。この他、タンパク質を13C及び15N安定同位体標識するための13C標識グルコース及び15N標識塩化アンモニウムの購入に使用する。またRNA分子の構造解析に必要となる、13C, 15N安定同位体標識された核酸合成用アミダイトの購入を計画している。
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Chemical Communications
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