本研究の目的はヒトセロトニン受容体のX線結晶構造解析を行い、分子選択的創薬に向けた知見を得ることである。前年度までにセロトニン1B受容体と抗精神作用のある候補化合物GR127935との複合体の立体構造を3.2 Åで決定した。このリガンドのシグナル応答への影響については議論の残るところであったが、立体構造の示す特徴からパーシャルアゴニストであることを明らかにした。さらに先行研究であった偏頭痛治療薬エルゴタミンとの複合体構造と比較し、その結合様式が大きく異なることを明らかにした。抗うつ薬であるボルチオキセチンは、GR127935と一部の同じ骨格持つため同様の結合様式を持つと考えられる。実際にドッキングシュミレーションで確認したところ、同様の結合様式で結合する可能性が高いことが示唆された。 加えて、今年度は向精神薬のターゲットの中心であるセロトニン2A受容体のX線結晶構造解析にも成功した。統合失調症治療薬であるリスペリドンとの複合体の立体構造を2.7 Å分解能で決定した。先行研究のモノアミン受容体とリガンド結合様式を比較するとリスペリドンは結合ポケットのより深部に入ることが明らかになった。また、セロトニン2A受容体にはTM4とTM5の間に特徴的なポアが存在していた。セロトニン2A/2C受容体選択性の高いリガンドについてドッキングシュミレーションを行ったところ、選択性の高いリガンドはこのポアに結合していることが示唆された。これらの結果はヒトセロトニン受容体をターゲットとした創薬に重要な知見を与える。
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