研究課題/領域番号 |
26840022
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北郷 悠 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (60507185)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / sorLA / 細胞外領域 / 結晶化 / 電子顕微鏡 / ネガティブ染色 / 動物細胞 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,先行していたsorLA分子中のVps10pYEというコンストラクト(Vps10p + YPドメイン + EGFドメイン)について,結晶化に向けた精製条件の検討を行った.その結果,1. 発現培養からの硫酸アンモニウム沈殿法による粗生成と濃縮,2. 当研究室で開発されたTargetタグを使った抗体アフィニティ精製,3. TEVプロテアーゼを使用したタグの切断,4. Endo Hを使用した修飾糖鎖の除去,5. ゲルろ過クロマトグラフィーによる会合画分の除去という基本的な精製手順は確立し,得られた純粋なサンプルを使ったリガンドペプチドの結合活性測定が可能となった.また,同じく得られたサンプルをネガティブ染色し,透過型電子顕微鏡観察を行うことで,溶液中でタンパク質粒子が単分散していることも確認できた.しかし,このコンストラクトは限外濾過膜に多量に吸着してしまうという性質のために溶液の濃縮が非常に困難であるという問題が表面化した.これを解決しようと,濃縮時のpHおよび温度の最適化,界面活性剤・塩・多価のアルコール類といった添加剤の検討,単独のシステイン側鎖によって間違った多量体が形成されていることを懸念したシステインブロック剤の使用等を行ってきたが,根本的な解決策はいまだ見つかっておらず,高濃度のタンパク質サンプルを多量に必要とする結晶化スクリーニングを実施するまでには至っていない. Vps10pYE結晶化用サンプルの調製と平行して,さまざまなsorLA細胞外領域フラグメントのコンストラクト設計を進める予定であったが,予備的に行った発現実験により,これまで成功していなかったsorLA細胞外領域全長の高効率発現が可能となる条件を,おそらく世界で初めて見出した.そこで,sorLA細胞外領域全長の発現条件の最適化を行い,HEK293T細胞において30mL程度の培養上清からでも泳動・染色で検出可能な量の目的タンパク質を可溶性で安定に回収することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたVps10pYEの結晶化については,タンパク質溶液の濃縮ができないという問題が表面化し,結晶化条件の探索に進むまでは至らなかったが,濃縮の条件を最適化する実験のために培養上清からの精製を繰り返し行っており,その結果,濃縮前のタンパク質サンプルが結晶化に非常に重要な単分散性を示すことを,ゲルろ過クロマトグラフィーのプロファイルおよび酢酸ウラニルによるネガティブ染色サンプルの透過型電子顕微鏡観察により確認できた.かつ結晶化にとって致命的な問題である濃縮の方法についても,今後の研究の推進方策の項に記述するように,解決するための方策は講じており,平成27年度に結晶化スクリーニングに至るタンパク質サンプルを取得することは可能であると考えている. 一方で,sorLA細胞外領域全長の発現については,研究計画の段階では全く見込みがたっていなかったため,やむを得ず実施できる可能性の高いフラグメント単位でのタンパク質を使った計画を立てたが,今回全長タンパク質の発現が可能になったということは,研究目的に沿った形で計画全体にとって非常に大きな前進である.これにより,研究計画の骨子である細胞外領域の大きなコンフォメーション変化を直接可視化できる可能性が出てきたのみならず,リガンド結合能や分子内相互作用を検出するに当たっても,より生理状態に近い実験デザインが可能となった. 総じて,Vps10pYEの結晶化計画については若干の遅れが見られるものの,sorLA細胞外領域全長タンパク質の産生が可能になったということを加味し,おおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
Vps10pYEに関しては,溶液の濃縮が可能とならない限り結晶化条件の探索を行うことは非常に難しいが,初年度終盤から2つの方法によってその解決を図っており,平成27年度前半までにこれらの方法で結晶化スクリーニングを行う予定である.一つは,現在のコンストラクトと精製法を使い,濃縮によるサンプルの損失があっても結晶化が可能な濃度と量が確保できるよう,とにかく精製開始時の上清量を増やすという力ずくの方法である.もう一つは,平成26年度に実施した予備実験から濃縮によるサンプル損失の割合が少なくなることがわかった別コンストラクトを用いるという方法である.このコンストラクトは既存のVps10pYEのC末端を15残基欠失させたものであり,浮遊細胞発現系を用いることで,接着細胞発現系による産生の数倍~数十倍のタンパク質取得が予備実験によって見込まれるものの,まだ浮遊細胞発現系を使用して結晶構造解析に至った例が存在しない,つまりは結晶化に適したタンパク質が取得できない可能性が捨てきれないという,浮遊細胞発現系自体の問題のために,完全にこの方法だけで進めるのはリスクが大きいと考え,前述の方法と平行して進めることとした. 当初の計画では,sorLA細胞外領域のさまざまなフラグメントについて,コンストラクトの設計とその発現実験を行う予定であったが,予想外にもこれまで実現していなかった細胞外領域全長の発現に成功したため, コンストラクトの設計計画を再考することにした.これまでの網羅的に設計したコンストラクトのうち,発現可能なものを使って構造情報を引き出す戦略から,効率的に必要な構造情報を得られるコンストラクト設計を行う方針へと修正する.目的タンパク質もしくはリガンドに化学ラベルを付加し,蛍光偏光法によってその相互作用を検出する方法はすでに確立しているため,平成27年度中に適切なフラグメントを用いた結合アッセイを行う予定である.
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