本研究は分子モーターであるキネシンの二足歩行運動を、レールである微小管がどのように促進するか、構造レベルで明らかにすることを目標とする。 本年度は、昨年度確立したチューブリン組み換え体の調製・結晶化法をもとに、キネシン-微小管の複合体の立体構造決定を目指した。チューブリン・キネシン複合体の結晶は得られなかったが、キネシン-微小管複合体のクライオ電子顕微鏡による立体構造解析に成功し、15Å程度の分解能立体構造を得た。双頭キネシンの原子モデルを作成して微小管がキネシン運動を促進する機構を検証し、変異体を用いた一分子運動解析とキネティクス測定により以下を明らかにした。 1) キネシンの後ろ頭部が微小管から離れたのちに、後ろ側への再結合が防がれる構造基盤は頭部を連結するネックリンカーにかかる張力にあることがわかり、張力を緩和するためにネックリンカーを伸ばした変異体では頭部間の協調性が失われ、頭部の後ろへの再結合が起こりやすくなることを一分子解析により示した。これはつまり微小管上のキネシン頭部の結合部位の間隔とキネシンの歩幅が絶妙にマッチしていること意味している。 2) 複合体構造をもとに設計した変異体のキネティック測定によりADP放出のメカニズムを明らかにした。すなわち、キネシンは3つの独立に動くサブドメインから構成されることを見いだし、1つはチューブリンに結合し、後の2つは前方と後方からヌクレオチドを挟んでいる。頭部が微小管に結合するとキネシンの微小管結合サブドメインではヌクレオチドポケット側でα4helix伸長が起こり、これにより前方のヌクレオチド結合サブドメインの回転を引き起こす。一方で後方のヌクレオチド結合サブドメインはαチューブリンとの相互作用により前方サブドメインと逆回転をするためにヌクレオチドポケットの構造が壊れ、ADPが放出されるという仕組みが明らかになった。
|