研究課題/領域番号 |
26840033
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
檜作 洋平 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (70568930)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大腸菌 / 膜内切断プロテアーゼ / GFP / 蛍光イメージング / 生化学 / 生物物理学 |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究成果は以下の通りである。項目は研究実施計画と対応してある。 【1】新たなσE活性化経路の探索 大腸菌の持つσE経路ストレス応答における新規のσE活性化経路の探索を目的とし、σE活性化の中心的役割を果たす膜内切断プロテアーゼRsePの機能解析を試みた。その過程で当初の研究実施計画にはないアプローチから興味深い結果が得られた。(1)’RsePの新規切断基質SMPの網羅的スクリーニングと解析:RsePの新たな切断基質の探索を目的とし、42種の分子量の小さな推定一回膜貫通タンパク質SMP(small membrane protein)を対象としてスクリーニングを行った。その結果、12種のSMPモデル基質においてRsePのプロテアーゼ活性依存的に切断断片を生じることを見出した。これらのSMPの中には機能未知のものも多く、RsePの新規機能の解明につながる可能性がある。(2)’RsePの新規機能調節領域に関する解析: (2)’-(A)PCT領域:RsePのペリプラズム領域に位置する機能未知の領域(PCT領域と命名)の欠失変異や点変異体解析から、この領域が基質の切断制御に関与することを見出した。(2)’-(B)MREβループ領域:RsePの細胞質領域に位置するβループ領域(MREβループと命名)の点変異体解析や相互作用解析から、このループ領域が基質と直接相互作用し、二次構造を変化させるとともに触媒部位へと提示する役割を持つ重要な領域であることを明らかにした。この内容を学術雑誌eLifeにおいて報告した。 【2】蛍光観察による表層ストレス応答システムの膜ダイナミクス解析 昨年度に確立したRsePによるモデル基質切断のリアルタイム蛍光顕微鏡観察系を用いて、新規に見出された基質候補であるSMPの挙動を解析した。いくつかのSMPで興味深い知見が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】新たなσE活性化経路の探索 においては、当初の研究実施計画で挙げていた(1)DegS非依存的な新規σE活性化ストレスの網羅的探索と解析 では大きな進展が見られなかったものの、新たなアプローチとして行った(1)’RsePの新規切断基質SMPの網羅的スクリーニングと解析 によってRsePの新規切断基質候補として12種ものSMPを同定できた。これらの新規切断基質候補はそれぞれが独立の解析対象となりうるため、当初の研究目的である新規のσE活性化経路の解明につながるだけでなく、σE活性化ストレス応答の全容解明に向けてより多面的な解析へと発展させることが可能である。そのため本研究課題の進捗状況としては大きな前進と言える。また当初の研究計画にはなかった(2)’RsePの新規機能調節領域に関する解析 において(2)’-(A) PCT領域の解析が進行していること、(2)’-(B) MREβループ領域の解析を完了し、学術論文として発表したことも研究の進捗という点で評価できる。一方、(2)サルモネラ菌を用いたDegS非依存的σE活性化ストレス応答の解析 では大きな進展は見られなかった。 【2】蛍光観察による表層ストレス応答システムの膜ダイナミクス解析 では、【1】で新たに同定されたRsePの新規切断基質SMP群のいくつかで蛍光顕微鏡観察・生体内イメージングを行い、研究計画で挙げた(1)蛍光観察による細胞内局在性、因子間共局在性等の解析 及び(5)細胞分裂と表層ストレス応答因子との相関 においては前進した。一方(2)ストレス応答時のダイナミクス解析 (3)全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)による膜ダイナミクス解析 (4)RseA二段階切断の完全可視化 においては大きな進展は見られなかった。 以上の観点から総合的に考慮し、ここまでの研究計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
【1】新たなσE活性化経路の探索 においては、一部研究計画を変更し、(1)’RsePの新規切断基質SMPの網羅的スクリーニングと解析 に重点を置いて解析を進める。現在使用しているSMPには大きな分子タグが付加されており、人工的なモデル基質である。RsePによるSMPの切断が生体内で起きていること示すため、(1)'-(A)小分子タグに置き換えたSMPの切断をin vivoで検出・解析するとともに、(1)'-(B)精製したRseP及びSMPを用いてin vitroでの切断の検出を試みる。また、本年度の研究成果を受け、新たな研究計画として(2)’RsePの新規機能調節領域に関する解析を追加する。(2)’-(A)PCT領域の解析で良好な結果が得られているため、引き続き点変異解析や生化学的解析を進め、σE活性化経路の中心因子であるRsePの機能解明に向けて研究を発展させる。また配列比較解析から、PCT領域は特徴的な二次配列を含むことを見出しており、その特徴に関しても追及する。 【2】蛍光観察による表層ストレス応答システムの膜ダイナミクス解析 においては、【1】で見出されたRsePの新規切断基質SMP群での蛍光顕微鏡観察・生体内イメージングを行い、RsePがSMPを切断することの生理的意義を検証する。基質候補のSMPの中には細胞分裂に関与することが報告されているものも存在する。それらについて解析を進めることで当初の研究計画に含まれる細胞分裂と表層ストレス応答因子との相関に関する研究についてもアプローチできる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(物品費):実験設備や備品等に関しては、研究室の保有機器、研究所の共同利用機器等に加え、昨年度に購入した蛍光顕微鏡関連の備品等により研究遂行が可能であった。またサルモネラ菌の抗体作製や蛍光顕微鏡の恒温観察用の温度制御ユニットの購入を見合わせたこと等によっても備品・消耗品等の使用額が減少した。(旅費):国外学会の参加を当初の予定よりも減らしたことや、共同研究の打ち合わせが不要となったこと等により使用額が減少した。(人件費・謝金):論文作成に掛かる英文校閲費用等が不要となったことで計上されなかった。(その他):論文投稿料、蛍光顕微鏡等の保有機器の修理費用等が不要となったことで使用額が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
(物品費):研究の進捗状況に応じて、本年度までに見合わせた蛍光顕微鏡の恒温観察用の温度制御ユニットや、蛍光フィルター、ソフトウェアのアップグレード、また位相差暗視野顕微鏡のカメラユニットや撮影制御ソフトウェアの購入により備品・設備費として計上する予定である。また各種SMP群の抗体作製費やペプチドの合成費として消耗品費を計上する可能性がある。(旅費)国内・国外学会への積極的な参加により旅費を計上する予定である。また蛍光顕微鏡観察のダイナミクス解析等の共同研究によっては打ち合わせ費用として計上する必要がある。(人件費・謝金):研究成果を取りまとめて論文作成に取り掛かる予定である。その場合、英文校閲費等として計上する。(その他):論文掲載料として計上する予定である。また保有機器の修理・維持費用として余裕を持って計上する必要がある。
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