研究課題
モデル微生物として広く知られている枯草菌は、プロトン駆動型MotABとナトリウムイオン駆動型MotPSの異なる2種類の固定子が同一のべん毛モーターで機能できるという、これまでに報告されている他のモーターにはない特徴を有する。そこで本研究では、性能の異なる2種類の固定子がどのように外環境の変化に応答してべん毛モーターに組み込まれ、駆動力を発生するのかを明らかにすることを目的とする。まず、極小のビーズを用いたナノ顕微計測法による1分子回転計測を行い、MotABおよびMotPSがそれぞれ発生するトルクを計測した。高負荷時における固定子1個あたりが出力するトルクはほぼ同じであるが、低負荷時における回転数がMotABに比べ、MotPSは圧倒的に遅いことが分かった。低負荷時におけるモーターはイオン透過速度が律速になることが考えられていることから、MotPSのイオンチャネル活性は低いことが推察された。さらに、野生株の計測を行ったところ、外環境にナトリウムイオンが存在しないときはMotABのみが組み込まれたモーターであるのに対し、ナトリウムイオンが存在するとMotPSが組み込まれ、MotABとMotPSの両方が同一のモーターに共存することがトルク特性から明らかとなった。固定子の外環境に対する応答メカニズムを調べるために、イオン選択性に関与することが分かっているMotBおよびMotSサブユニットに注目し、これらタンパク質の各種ドメインを入れ替えた改変型固定子を作製した。改変型固定子を発現させた菌株の1分子回転計測により、MotSサブユニットのペリプラズミック領域を持つ改変型固定子がモーターに安定に組み込まれるためにはナトリウムイオンが必要であることが分かった。このことから、MotSサブユニットのペリプラズミック領域が外環境のナトリウムイオンを感知している可能性が示唆された。
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