研究課題/領域番号 |
26840036
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三崎 亮 大阪大学, 生物工学国際交流センター, 講師 (20571186)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | リサイクリングエンドソーム / Ras / シグナル伝達 / パルミトイル化 |
研究実績の概要 |
リサイクリングエンドソーム(RE)でのRas活性化機構およびRE膜脂質環境のRas活性化への関わりを明らかにすることで、RE発シグナル伝達機構の立証を目指した。 当年度は、(1)Ras活性化因子グアニンヌクレオチド交換因子(特にRasGRP1)の局在解析およびRas活性化への寄与の検証、(2)ホスファチジルセリン合成酵素1(PSS1)遺伝子ノックアウト細胞の構築を行った。 研究課題(1)について、蛍光タンパク質を融合したRasGRP1をCOS-1細胞で発現したところ、ゴルジ体を含む核近縁部に局在した。RasGRP1をRasと共発現すると、RasGRP1はREでRasと共局在した。また、REに局在するRasは以前の報告通り活性型であった。次に、ゴルジ体に限局しREに局在できない脂質付加部位変異型RasとRasGRP1を共発現すると、RasGRP1は変異型Rasとゴルジ体でほとんど共局在しなかった。一方、アミノ酸変異を導入した不活性型RasGRP1を構築し発現したところ、蛍光タンパク質と融合した不活性型RasGRP1は核近縁部に広く局在するものの、REにおいてRasと強い共局在を示さなかった。この時REに局在するRasは不活性型であることが分かった。さらに、内在性RasGRP1の遺伝子発現をsiRNAにより抑制したCOS-1細胞ではREに局在するRasは不活性型であった。また、RasGRP1の局在の足場となるジアシルグリセロールがREに集積していた。上記の結果から、RasGRP1はREに局在するRasを特異的に活性化することが示唆された。RE発シグナル伝達機構が存在するという仮説を裏付ける重要な成果である。 研究課題(2)について、人工ヌクレアーゼを利用したPSS1遺伝子ノックアウトCOS-1細胞の構築を試みた。変異導入用ベクターを構築し目的遺伝子破壊を行ったが、非常に変異導入効率が悪く遺伝子破壊株を単一クローン化できなかった。原因として、標的遺伝子領域の選択に問題があると考えられたため、次年度にて改善する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ras活性化因子であるグアニンヌクレオチド交換因子RasGRP1の細胞内局在について、光学顕微鏡を利用したリサイクリングエンドソーム(RE)の観察が容易であるCOS-1細胞を用いて詳細に解析できた。また、Raf-Ras結合領域を利用して、RasおよびRasGRP1共発現下におけるRasの活性化状態についても解析できた。この時、Ras不活性化因子の働きによって活性化されたRasが不活性化されてしまうことも考えられていたが、現状で問題は見られていない。また、Ras局在に必須であるC末端脂質修飾部位に変異を導入した変異型Rasを用いて、REに局在できないRasを発現した場合のRasGRP1およびRaf-Ras結合領域の局在についても解析した。実験に用いた変異型Rasについては、脂質アナログを添加することで局在が消失することから脂質修飾を受けたことが確認できた。さらに、次年度に予定していたRasGRP1ノックダウンの実験を計画を早めて行った。同時に不活性型RasGRP1発現用ベクターも構築し、データの信頼性を高めた。本実験により、REに局在するRas活性化にRasGRP1が必要であることが分かった。 一方で、ホスファチジルセリン合成酵素1(PSS1)ノックアウトCOS-1細胞の構築について、人工ヌクレアーゼを利用した遺伝子破壊を試みた。ベクターの構築には成功したが、期待した遺伝子破壊効率を発揮できなかったためPSS1破壊株の単一クローン化が遅れている。低効率の原因がほぼ特定できたため、現在ベクターを再構築している。 以上の研究進捗状況から、本年度終了時点で研究課題は概ね順調に進行していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
グアニンヌクレオチド交換因子RasGRP1ノックダウン下ではリサイクリングエンドソーム(RE)のRas活性が喪失したことから、REに局在するRasの活性化はRasGRP1が特異的に行う可能性が示唆されたが、RasGRP2、3の局在についても解析する。また、極性細胞を用いて、RasGRP1ノックダウンが細胞の成長・分化に与える影響を細胞の表現型を見ることで検証する。 また、ホスファチジルセリン合成酵素1(PSS1)遺伝子を破壊したCOS-1細胞の構築を進める。人工ヌクレアーゼを利用した遺伝子破壊を効率的に行うためベクターを再構築する。PSS1遺伝子破壊効率を検証後、細胞を単一クローン化しホスファチジルセリン合成能を解析すると共に、Ras、RasGRP、Raf-Ras結合領域を当該細胞にて共発現し、各々の局在およびREでのRas活性化について解析する。PSS1遺伝子破壊COS-1細胞の構築が困難を極める場合は、既に樹立されたPSS1遺伝子変異CHO細胞を宿主細胞とし、上記研究を進める。
|