研究課題/領域番号 |
26840041
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
神村 圭亮 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 主席研究員 (30529524)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヘパラン硫酸 / プロテオグリカン / ショウジョウバエ / ムコ多糖代謝異常症 |
研究実績の概要 |
HSPGはコア蛋白質にHSが共有結合した糖蛋白質であり、細胞膜表面の構成分子として細胞増殖・分化、細胞接着などの様々な現象に関与することが知られている。HSPGがこの様な多彩な機能を示す一つの原因は、HS鎖が非常に多くの蛋白質と結合し、それらの機能を調節するためだと考えられている。一方、HS鎖は最終的にリソソームで分解されるが、ヒトにおいてHS鎖の分解に異常をきたすと骨格異常や精神発達遅滞を伴うムコ多糖代謝異常症が発症することが知られている。HS鎖の分解は多数の特異的なグリコシダーゼ及びスルファターゼが、非還元末端から順次分解反応を触媒することによって進行する。そのためこれらのHS分解酵素が欠損すると、HS鎖の分解が途中で停止しリソソームに蓄積するため、リソソームが肥大することが知られている。このようにHS鎖の分解は発生過程において極めて重要な働きをするが、ムコ多糖代謝異常症で見られる骨格異常や精神発達遅滞がどの様な分子メカニズムにより発症するのか全く分かっていない。そこで本研究では、ムコ多糖代謝異常症の新たな疾患モデルとしてショウジョウバエを用い、発生過程におけるHSの分解の意義を明らかにすることを目標としている。 平成26年度の解析の結果、HS分解酵素の一つであるイズロニダーゼをノックダウンするとGPIアンカー型HSPGであるDlpの細胞膜表面におけるレベルが減少し、BMPのシグナル活性 (リン酸化Smadのレベル) が低下する結果、翅の発生に異常をきたすことが判明した。この結果はHSの代謝分解が細胞膜表面のHSPGの機能を調節することを示唆するものである。したがって、今後解析を進めることでHSの分解によるHSPG機能調節の詳細な分子機構が明らかになる可能性は高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生過程におけるHSの分解の役割を明らかにするためにはHS分解酵素欠失変異体を単離し、表現型を詳細に解析する必要がある。我々はHS分解酵素の一つイズロニダーゼの欠失変異体に関し、成虫翅及び神経筋接合部の形態を詳細に解析した。しかしながら、どちらの組織においても明らかな形態異常は見出せなかった。変異体におけるヘパラン硫酸の蓄積は加齢と共に進行することが考えられる。そこでイズロニダーゼ欠失変異体の寿命を測定したところ、野生型と比べ顕著な差を見出せなかった。一方、RNAi法を用いてイズロニーダーゼを細胞特異的にノックダウンした結果、成虫翅において過剰な翅脈が観察された。またこのRNAi個体では翅原基においてGPIアンカー型HSPGであるDlpの細胞膜表面におけるレベルが減少し、リン酸化Madの減少が観察された。この結果はHSの代謝分解が細胞膜表面のHSPGの機能を調節し、シグナル伝達を調節することを示唆する。したがって、今後解析を進めることでHSの分解によるHSPG機能調節の詳細な分子機構を明らかにする予定である。また平成26年度に実施予定であったHS分解酵素変異体におけるリソソームの形態観察が進まなかったため、平成27年度に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続きHS分解酵素欠失変異体及びRNAi個体が示すリソソーム等のオルガネラや細胞の形態を詳細に解析する。また変異体のリソソームにおいてHSが蓄積することを免疫組織化学染色法により調べる。これによりショウジョウバエ変異体が示す異常とヒトにおけるムコ多糖代謝異常症との類似性を調べる。一方、成虫の翅を用いた解析からHS分解酵素がBMPのシグナル伝達経路を調節する可能性が考えられた。そこで次に遺伝学的手法を用いてHS分解酵素欠失変異体におけるシグナル活性を正常化することで、発生異常が回復するかどうか調べる。これにより、HS分解酵素が関与するシグナル系を同定する。 一方、HS分解酵素の欠損によるHSの蓄積量は時間経過に伴って増加することから、成虫になってから異常を示す可能性も考えられる。HS分解酵素の欠失変異において寿命に関しては異常が観察されなかったが行動などに影響する可能性も考えられる。そこでHS分解酵素欠失変異体及びRNAi個体の(匂いと電気ショックの条件付けによる)学習・記憶能力を調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度においては、単離した突然変異体の表現型が明白でなく、詳細な機能解析に至らなかった。そのため、消耗品等を予定額まで購入しなかったため次年度における使用を希望した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に予定していたリソソームの機能解析などを中心に研究を行うため、観察に必要なトランスジェニックハエと試薬の購入及び謝金に使用する予定である。
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備考 |
神経回路形成プロジェクトホームページ http://www.igakuken.or.jp/regeneration/
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