研究課題/領域番号 |
26840048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 知宏 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80346791)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / ABCトランスポーター / X線結晶構造解析 / 基質輸送 / ATP |
研究実績の概要 |
ABCトランスポーターは、ATP加水分解(ATPase)反応によって基質を能動輸送する。ヒトのABCトランスポーターではこのATPaseと基質輸送の共役機構が高度に調節されていることから、この共役調節機構の解明はヒトABCトランスポーターメカニズム解明の重要な課題である。これまでに研究代表者らは、高等真核生物由来ABCトランスポーターCmABCB1の結晶構造を決定し、その基質輸送経路と考えられる領域に部位特異的変異を導入したところ、あるGln残基をAlaに置換した変異体では、輸送基質によるATPase活性への作用が消失していることを発見した。この残基はATPase活性と基質輸送との共役調節に寄与すると考えられた。本年度は、当該Gln残基のAlaへの改変が立体構造にどのように影響したのかを明らかにするため、X線解析を目指して結晶化を実施した。検討の結果、結晶が得られたため、SPring-8ビームラインBL41XUにてX線回折実験を行ったが、構造決定が可能な回折像の取得には至らなかった。そこで、当該残基をAla以外のアミノ酸に置換した場合の共役機能への影響を調べたところ、共役調節に重要な当該残基の側鎖の性質が明らかになった。さらに、当該残基と基質の相互作用を明らかにするために、基質アナログ複合体結晶の調製を検討した。この複合体については、Cys残基と共有結合を形成する基質アナログを用いて調製するために、CmABCB1にCysを導入する位置の探索を行った。その結果、基質アナログと高い効率で共有結合の形成を形成するCys置換変異体を得ることができた。この基質アナログ複合体試料を用いて結晶化を実施したところ、X線結晶構造解析に適した良質の結晶が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質工学および生化学的な実験により、共役調節に重要な当該Gln残基の側鎖の性質が明らかになった。さらに、構造解析が期待できる基質アナログとの複合体結晶が得られた。この結晶のX線解析による当該残基と基質との相互作用の解明は、当初計画のとおり次年度に実施する。しかし、当該残基の改変が立体構造に与える影響の解明については、当該残基変異体の結晶を調製できたものの、その分解能は低く、構造決定には至らなかった。分解能が低い要因として、この変異体は一定の構造をとりにくい可能性が考えられたことから、問題の解決には一定の構造を保つ工夫が必要であることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
当該Gln残基の改変が立体構造に与える影響の解明については、タンパク質工学的改変の導入や構造安定化阻害剤の利用によってX線結晶構造解析における問題の解決を図る。当該残基と基質との相互作用の解明については、当初計画のとおり基質アナログ複合体のX線結晶解析を実施する。この構造解析によって複合体中の基質の立体構造を決定できない場合の対策としては、ドッキングシミュレーションによって当該残基と基質との相互作用を推定する。さらにその検証を、基質結合によるトリプトファン残基の蛍光変化を利用して基質の解離定数を測定する系を用いて実施することにより、目的達成のために万全を期す計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額はわずかであり、当初計画とほぼ同じ額の助成金を使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に計画していた当該Gln残基の生化学的解析は前年度に実施したため、この実験のための研究費を前年度達成できなかった当該残基変異体の結晶構造解析に充て、予定通りの計画遂行に勤める。
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