Tipαはピロリ菌によって分泌され、胃がんを誘発するTNFαを誘導するタンパク質であり、N末端2つのシステインを介しホモ二量体を形成する。このN末端の欠損変異体del-Tipαを作製し、結晶構造を明らかにした。他グループからもdel-Tipαの構造が明らかにされ、結晶化条件のpHにより二量体がオープン型とクローズ型の二状態をとることが明らかとなった。本研究では二量体構造とTNFα誘導の相関を調べるためオープン型、クローズ型に固定したTipαおよびdel-Tipαを作製し、構造解析および機能解析を行うこととした。平成26年度にはTipα変異体とリンカーを用いて二量体の固定化を試み、解離しない二量体を確認した。本年度では、この固定化二量体の単離を試みたが分離することができなかった。 一方で、野生型のTipα、del-TipαについてpHの異なる条件でX線小角散乱法を用いて形態評価を行った。これまで明らかにされている構造は酸性条件下のTipαおよびdel-Tipα、塩基性条件下のdel-Tipαであり、酸性条件下におけるTipαの構造は明らかにされていない。X線小角散乱測定の結果、Tipα、del-Tipαともに酸性条件下と塩基性条件下における構造は異なっていた。また酸性条件下におけるTipαとdel-Tipαはオープン型の結晶構造から算出した散乱データと同様の測定波形を示し、すなわちいずれもオープン型であることが示唆された。同様に、塩基性条件下についてもTipα、del-Tipαともにクローズ型の結晶構造から算出されたデータと同様の測定結果を示し、どちらもクローズ型であることが示唆された。これらの結果から、結晶中と同様に溶液中においても酸性、塩基性条件下において構造が異なり、さらにこれまで明らかになっていなかった酸性条件下におけるTipαがオープン型であることを強く支持する結果を得ることができた。
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