研究課題/領域番号 |
26840055
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
柳川 正隆 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 基礎科学特別研究員 (70609792)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物物理学 / 薬理学 / 生化学 / GPCR / 1分子イメージング / FRET |
研究実績の概要 |
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は薬の標的分子として主要な位置を占めている。近年、様々なGPCRが二量体・多量体を形成して互いに活性を調節する事例が数多く報告され、多量体化による機能調節メカニズム・生細胞における多量体化の実態の解明は薬理学・創薬において重要な課題である。本研究では、生細胞膜中のGPCRの多量体サイズ分布および刺激依存的な多量体の構造変化の解明を目的とする。具体的には、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)のホモ多量体およびmGluRとセロトニン受容体(5HTR)のヘテロ多量体をモデルとして1分子動態計測・FRET計測を行う。 平成27年度は、生細胞におけるmGluRのホモ多量体の1分子動態解析において大きな進展が得られた。様々なリガンド条件下で生細胞膜中のmGluRを全反射蛍光顕微鏡により1分子計測し、多量体サイズ・拡散係数の分布を比較したところ、受容体の活性と相関して、遅く拡散する高次多量体の割合が増えることが明らかになった。この結果は、1分子動態を計測することで生細胞膜中のGPCRの活性を推定できることを示しており、新たな薬剤スクリーニング指標の提案につながる発見である。 また、平成26年度に課題となっていた5HTRの蛍光標識法については、生細胞中で1分子計測可能な標識法を確立することに成功した。今後は、mGluRと5HTRの2色同時1分子計測を行い、活性化に伴うヘテロ多量体の分布の変化を解析する。また、平成26年度に設計したmGluRと5HTRのヘテロ多量体の構造変化を推定するためのFRETプローブについては、細胞膜にほとんど局在せず内膜に留まってしまうため生細胞における1分子FRET計測は困難であると判断した。今後は、粗精製膜画分を用いたin vitroのFRET計測を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、生細胞におけるmGluRの1分子動態解析から、GPCRの活性化と多量体化が密接に関わっていることを明らかにした。さらにクラスリンとの2色同時1分子計測を行うことで、この多量体化がGPCRのエンドサイトーシスの過程に関わることを明らかにした。クラスリン被覆小胞を介したエンドサイトーシスはGPCRのシャットオフ機構として一般に知られているため、1分子イメージングによる様々なGPCRの活性を推定することが可能になると期待される。本研究では、生細胞におけるGPCRの多量体サイズ分布の解明を第1の目標に掲げたが、現在までに多量体サイズ分布だけでなく多量体化と機能の連関を明らかにし、今後の創薬への応用を見据えた結果を得られたており当初の計画以上に進展していると言える。 一方、第2の目標として掲げたGPCRのヘテロ多量体の構造変化の解明については、プローブ作成に手間取るなど、1分子レベルでの解析が進んでいない。今後、現在までに作成したプローブを利用してヘテロ多量体の解析を行っていきたい。 以上を総合し、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在までに作成したFRETプローブを用いて1分子FRET計測をin vitroで行い、刺激依存的なmGluRと5HTRのヘテロ多量体の構造変化を解析する。既にバルクでのFRET計測から、mGluRを活性化するリガンドを加えた際に、ヘテロ多量体のFRET効率の低下が生じることが明らかになっている。1分子FRET計測では、FRET効率の分布が推定できるため、刺激依存的にヘテロ多量体が乖離するのか、ある程度構造を保った状態でプロトマー間の距離が離れるのかを推測できると期待される。 また、生細胞においてmGluRと5HTRの2色同時1分子計測を行うことで、ヘテロ多量体のストイキオメトリを推定し、その刺激依存的な変化を解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、現在までにmGluRの1分子計測から多量体化の生理的意義の一端を明らかにし、1分子動態を指標にした活性推定が可能であることを発見した。現在、本内容をまとめた論文を投稿中であり、次年度以降、査読において追加実験が求められる可能性が高い。また、論文掲載が決定した場合は掲載費用が次年度以降に必要となる。 さらに、mGluRと5HTRのヘテロ多量体の1分子FRET計測については、まだ研究途上であり、次年度も継続した研究が必要であると判断した。 以上の研究に関連する支出に充てるため、平成28年度に繰り越す使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の成果を誌上発表する際の掲載費用として繰越金を用いる予定である。 残る繰越金は、査読における追加実験および1分子FRET計測を行う際に必要な試薬・消耗品(細胞培養培地・細胞培養用シャーレ・蛍光染色試薬)の購入に用いる。
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