研究課題/領域番号 |
26840066
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
麓 勝己 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40467783)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 肺 / 分岐形態形成 / Wntシグナル / 細胞分裂 / アクトミオシン |
研究実績の概要 |
Wntシグナル伝達は細胞増殖・分化など様々な細胞機能を制御する。胎生期肺において、Wntシグナルは分岐形態形成に関与することが知られているが、その際どのような細胞機能を制御するのかは不明である。 胎生期において肺上皮組織は突出と屈曲を繰り返すことにより3次元的な枝分かれ構造を形成する(分岐形態形成)。私共は肺上皮組織を三次元培養し、Wntシグナルの活性化により分岐形態形成を誘導する系を確立している。本系において、組織内における分裂期細胞の空間的な配置を観察したところ、球形の分裂期細胞が生じた領域が組織屈曲点と一致する傾向があり、その傾向はWntシグナルの活性化と負の相関があった。 そこで本年度は分裂期細胞が積極的に組織の屈曲に関与するか否かを検討した。そのために、Hydroxyurea(HU)により上皮組織内における細胞周期を同調した。HU処理群ではリン酸化HistonH3抗体染色により分裂期細胞が検出されずS期に同調していると同時に分岐形態形成が有意に抑制されていた。またHUをrelease後、分裂期細胞が出現するとともに屈曲を伴い分岐が誘導された。以上より、分裂期細胞の分岐形態形成への積極的な関与が示唆された。 一方、Wntシグナルをアゴニストにより活性化すると細胞膜、特に頂端膜にミオシンがリクルートされ、その際張力センサーであるvinculinを伴っていた。このことは、細胞表層に強い張力が発生し分裂期細胞による屈曲作用に抑制的に働く事を示唆する。この機構を明らかにするため、Wntシグナルの標的遺伝子群をDNAマイクロアレイにより同定した。また、標的遺伝子群の機能を解析するため、レンチウィルスべクターを用いてshRNAを導入し、組織内でノックダウンする系を確立した。現在までにいくつかの標的遺伝子候補をノックダウンすることで分岐形態形成が抑制されることを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年間の研究期間のうち、初年度は1)培養肺上皮における分裂期細胞による分岐誘導作用の解析及び2)in vivoでの肺上皮組織分岐・屈曲点における分裂期細胞の局在解析を目標としている。 上述のように、HUを用いた細胞同調実験により細胞周期と組織屈曲の相関関係を明らかにすることができた。 次に、分裂期細胞がin vivoで組織屈曲点に相関するか否かを明らかにするため、胎生期11日から13日目までの肺原基パラフィン切片をリン酸化HistonH3で染色した。屈曲点と分裂期細胞の一定の相関を認めたものの、組織切片では分裂期細胞の絶対数が少なく、屈曲点を明確に定義できなかった。また、whole mount免疫染色を行ったが、厚みのため蛍光顕微鏡観察には困難を伴った。現在、SeeDB及びScale法など用いた組織透明化を検討している。 一方、肺上皮組織におけるWntシグナルの標的因子を同定するため、DNAをマイクロアレイを行った。さらに標的遺伝子をノックダウンするためにレンチウィルスを用いた遺伝子発現抑制系を確立した。実際に複数の候補遺伝子及びそれらに付随する遺伝子群をノックダウンし、分岐形態形成に関与するものを見出している。この点は、次年度の計画の遂行において欠かせないないものであり、本年度中に確立できたことは評価できると考えた。 以上より、本年度の計画は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Wntシグナルは分枝形成に必須であるが、分裂期細胞と組織屈曲点との相関関係はWntの活性依存的(CHIR濃度依存的)にその相関が次第に損なわれる。このことはWntの活性は分裂期細胞による屈曲誘導に対してネガティブに作用し、分岐数や管腔サイズを調節していることを示唆している。神経管閉鎖における頂端収縮など肺と同様に上皮組織が屈曲する現象において、アクチン・ミオシン活性の組織内での局所的変化が形態形成運動の誘導に関与することが知られている。そこでミオシンの活性化状態をミオシン軽鎖のリン酸化抗体で免疫染色し、その存在領域や量がWntの活性のとともに変化するか否かを解析する。また、分裂期細胞が屈曲点に存在している領域において周囲の細胞形態の変化がどのように伴っているかについて、固定試料のE-cadherin染色による形態観察、及びH2B-mCherryとlifeact-GFP(アクチン繊維を可視化)を発現させた生試料のタイムラプス観察を行う。また、原子間力顕微鏡を用いて組織の「硬さ」について、組織屈曲が起こる領域とその他を比較し、局所の特性を解析する。 上述のように分岐形態形成に関与するWntシグナル標的遺伝子群をDNAマイクロアレイにより同定している。しかし、分裂期細胞による組織屈曲作用に対する影響は不明である。そこで、標的遺伝子群をノックダウンし、ミオシンの活性化状態、細胞形態、及び組織の硬さに対する影響を解析する。 また、標的因子群による増殖細胞数への影響を解析するため、リン酸化HistonH3染色分裂期細胞数への影響、Edu取り込み、Ki67増殖マーカーによる染色を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
私は、新学術領域研究、「分岐を伴った上皮管腔組織構造の形成・維持のメカニズム」において分担研究者として従事している。研究目的は異なるが、本若手研究(B)と共に、肺上皮組織を用いた解析であるため、物品費などは共有した。 その上、平成26年度の成果により、平成27年度は分裂期細胞による分岐形態形成のメカニズムを明らかにすることを計画しているため、各種生化学試薬、抗体、レンチウィルスベクターなどの大量の物品費が生じることを想定された。 そのため、次年度使用額(B-A)を平成27年度の使用に計画した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額(B-A)は全て消耗品に使用する。
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