研究実績の概要 |
細胞の核構造と代謝経路の相互作用は、古くからその重要性が指摘されているにも関わらず、詳細は依然として不明であった。本研究は、早老症の原因遺伝子の一因と考えられるラミンA遺伝子LMMAの機能阻害により、引き起こされる核構造の異常と細胞内代謝経路との相互作用ネットワークの関係を明らかにすることを目的とする。前年度作成したCRISPR/Cas9によるLMNAノックアウト細胞は生育が極めて悪いため、代謝ネットワークの正確な計測が困難であった。そこで、本年度は、薬剤誘導によりLMNA遺伝子の機能阻害する細胞システムを構築するため、ドキシサイクリン投与でラミンAのドミナントネガティブ体であるプロジェリン(タンパク質)を発現させるFlip-In HEK293細胞を作成した。野生型ラミンAの誘導発現株および薬剤のみの細胞株を対照として、これらの細胞株で網羅的代謝物の解析を行った。前年度に確立した約1,000種類以上の代謝物測定を可能とする解析システムおよびリン脂質を中心とするリピドミクス解析システムを用い、プロジェリン発現株で特異的に変動する代謝物・代謝経路のスクリーニングを行った。その結果、前年度と同様に、ミトコンドリアを場とする代謝経路の変動を捉えることができた。そこで、現在、引き続き、これらの代謝経路の律速となる代謝酵素周辺の遺伝子の発現や活性の変動などを検証することで、核構造とミトコンドリア代謝ネットワークの鍵となる分子種を明らかにし、その制御メカニズムについてを更なる検証を行っている。
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