研究実績の概要 |
本研究では、未分化な受精卵と分化した多核細胞における核の配置メカニズムを調べることで、細胞内における多様な核の配置戦略と意義を明らかにすることを目的としている。昨年度は、線虫C. elegansの精子核が受精卵内で生じる細胞質流動を利用して適切な位置へ移動するという新たな核配置機構を見出した。最終年度は、(1)核を移動させる細胞質流動のより詳細な解析に加え、(2)一細胞内に二つの核を有する線虫の腸細胞における核配置を多核細胞モデルとして解析し、以下の成果を得た。 (1)昨年度明らかにした受精卵内における核移動と細胞質流動との関係性をさらに検証するため、流動パターンを変化させたときの核配置への影響を調べることを試みた。これまでに細胞質流動の速度を増加あるいは低下させることができる実験系の確立に成功した。現在はそれらの操作による流動パターンと核配置への影響を解析している。 (2)腸細胞における核配置を調べるため、腸の核と細胞膜をGFPで可視化した株を樹立し、細胞内における核配置データを得た。核分裂直後、二つになった核は細胞中央付近から次第に離れ、それぞれ細胞を等分したときの中央付近に配置することを発見した。核配置に関わる分子としてキネシンに注目し、その変異体を樹立して核配置を調べると、核が中央から外れ細胞膜に近く配置する傾向にあった。微小管は細胞膜から内部へと伸長する傾向にあり、キネシンは核膜に僅かに強く局在していた。以上は、多核化した腸細胞における核配置には微小管を利用したキネシン依存的な輸送が寄与することを示唆している。 本研究により、以前に提案した核配置機構(Kimura & Kimura, PNAS 2011)とは全く別の新規メカニズムが明らかになりつつある。特にこれまで多核細胞における核配置機構はほとんど不明であったが、今回の成果はその理解を進める重要なデータである。
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