本プロジェクトではこれまで動いている生体組織の硬さをはじめとする力学的な特性を研究してきた。これは人間を含む動物の組織・臓器・体がいかに形作られるか、そしてそれをどうすれば制御できるかを理解するために有用な要素技術となる。 本年度では、前年度終了時に残された2つの課題である、(1)分子モーター阻害条件の元での組織変形に関するデータの解析、および(2)力学と細胞情報伝達の相互作用を考慮したメカノケミカルなモデルのパラメータのデータに基づく推定、 に取り組んだ。課題(1)については、当該条件下で生体組織がより柔らかくなっていることがわかった。この現象は培養がん細胞を含むいくつかのモデル系で報告されていることであり、これを創傷治癒モデル系で確認したことで提案手法の有用性と信頼性を示すことができた。課題(2)については、推定されたパラメータ値の解釈が難しく、また推定自体の精度も低かった。これは各細胞への情報入力が、細胞によってどのように解釈され、いかに運動へつながるかの理解が不足しているためと考えられる。この点については、より単純なモデル系である細胞性粘菌を題材とした理論研究を行い、一定の成果を挙げることができた。 本プロジェクトはここで終わるが、将来的な課題として3次元組織、特に培養臓器の解析がある。 そのためには力学モデルの非一様な組織への拡張、より部分的な観測データしか得られない状況への対処、アルゴリズムの計算量の軽減などの様々な問題がある。これらについて今後も研究を継続していきたいと考えている。
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