研究課題/領域番号 |
26840082
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
田中 翼 熊本大学, 発生医学研究所, 助教 (00392027)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 生殖細胞 / RNA局在 / エンドサイトーシス / 小胞輸送 |
研究実績の概要 |
生殖細胞は生命の連続性を保つために不可欠の細胞系列である。多くの動物において、生殖細胞は生殖質とよばれる特殊な細胞質領域に局在する母性因子の働きにより決定される。ショウジョウバエでは、生殖質は卵形成過程で卵母細胞の後端に形成される。私たちは以前、卵母細胞の後極で局所的に活性化されるエンドサイトーシスが生殖質の形成に必須であることを明らかとした。そして、局所的なエンドサイトーシスで生じる細胞内小胞の膜上が、特異的な因子の機能発現の「場」として働くことで、生殖質の形成を制御するという新しい生殖質形成のモデルを提唱した。 しかし、どのような因子が細胞内小胞の膜上に局在し、母性因子の局在や小胞輸送を制御しているのかは不明である。本研究では、母性因子の局在を制御する細胞内小胞の構成因子の同定と機能解析、さらに小胞輸送に関与することが予想されるexocyst複合体の機能解析を行うことで、細胞内小胞による生殖質の形成制御の分子基盤を明らかにすることを目的とした。 平成26年度は、どのような因子がエンドサイトーシスの制御に関与するのかを明らかにするために、生殖質の形成に必須で、エンドサイトーシスの局所的活性化を制御する因子であるOskarと相互作用する因子の探索を行った。その結果、ビテロジェニン受容体を候補因子として同定した。ビテロジェニン受容体は、胚発生段階の栄養源となる卵黄タンパク質をリガンドとして認識し、それらを卵母細胞内に蓄積させる。しかし、生殖質形成におけるビテロジェニン受容体の関与は全く知られていない。そこで、CRISPR/Casシステムを用いてビテロジェニン受容体の変異体の作成、ならびにビテロジェニン受容体に対する特異的抗体の作成を行った。予備的実験によりビテロジェニン受容体の変異体では生殖質形成が異常となることを見い出しており、現在その詳細な解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内小胞による生殖質の形成制御の分子基盤を明らかにするという本研究の目的を達成するために、生殖質形成とエンドサイトーシスの制御の鍵となる因子であるOskarと相互作用する因子の探索を行い、候補因子としてビテロジェニン受容体を同定した。さらに、生殖質形成におけるビテロジェニン受容体の関与を明らかとするために、ビテロジェニン受容体の変異体の作製、ならびにビテロジェニン受容体に対する特異的抗体の作製を行い、いずれの作製も成功している。したがって、目的達成に向けて順調に進捗していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、生殖質形成とエンドサイトーシスの制御の鍵となる因子であるOskarと相互作用する候補因子(ビテロジェニン受容体)の同定、およびその変異体の作成を行った。そこで、平成27年度は、ビテロジェニン受容体の生殖質形成における役割を明らかとすることを目指す。生殖質の形成の過程は、(1)卵母細胞の前後軸の形成、(2)oskar mRNA の卵母細胞の後端への輸送、(3)局所的な翻訳によるOskarの発現、(4)Oskarによるエンドサイトーシスの活性化、(5)アクチン再編成(アクチン繊維束の形成)といった複数の段階に分けられる。予備的実験によりビテロジェニン受容体の変異体では生殖質形成が異常となることを見出しており、ビテロジェニン受容体が生殖質形成のどの段階に影響を与えているのかを明確にする。 また、研究代表者は、Sec5が生殖細胞の形成に関わるmRNAの局在に必要であることを見い出している。Sec5 は、リサイクリングエンドソームの輸送を制御する複合体(exocyst)の構成因子であることから、Sec5および他のexocyst構成因子の機能欠損によるリサイクリングエンドソームの輸送およびmRNA局在化への影響を検討する。 得られた結果は、速やかに原著論文として取りまとめ公表する。
|