私たちの生物種としての連続性は、卵や精子を作り出す生殖細胞によってのみ保証される。多くの動物において、生殖細胞は卵内の特異的な位置に形成される生殖質により決定される。生殖質の形成機構の研究の良いモデル系となっているショウジョウバエでは、卵形成過程に生殖質因子が逐次的に卵母細胞の後端に局在化されることで、生殖質が形成される。私たちは以前、卵母細胞の後端で局所的に活性化されるエンドサイトーシスが生殖質の形成に必須であることを明らかとした。そして、局所的なエンドサイトーシスで生じる細胞内小胞の膜上が、特定の因子の機能発現の「場」として働くことで、生殖質の形成を制御するという新しい生殖質形成のモデルを提唱した。しかし、生殖質因子の局在を制御する細胞内小胞の実体は不明である。本研究では、生殖質因子の局在を制御する細胞内小胞を構成する因子を同定し、それらの機能解析を行うことで、細胞内小胞による生殖質の形成制御の分子基盤を明らかとすることを目的とした。 平成26年度は、細胞内小胞に局在して生殖質形成を制御するOskarタンパク質と相互作用する因子として、卵黄タンパク受容体Yolkless (Yl)を同定し、その変異体を作製した。そこで、平成27年度は、作製したylの変異体を用いて、生殖質形成におけるYlの機能を検討した。その結果、Ylは細胞極性の形成、およびアクチン細胞骨格の再編成を介した生殖質因子の係留に必要であることを見い出した。さらに、Yl受容体のリガンド(卵黄タンパク質)の変異体においても、yl変異体と同様な生殖質の形成異常が観察された。これらのことは、Ylのエンドサイトーシス制御が生殖質形成に必須であることを示すとともに、Ylの局在する細胞内小胞が生殖質因子の局在を制御することを強く示唆している。以上の成果を論文として取りまとめ公表する準備を現在進めている。
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