研究課題
ヒト腸管発生の分子メカニズムを正しく理解し、細胞分化を制御するためには、逆遺伝学的アプローチが必須となるが、遺伝子操作と培養環境操作を組み合わすことは一般には困難なため、多くがブラックボックスのままである。本研究は、転写因子CDX2を誘導できるヒトおよびマウス多能性幹細胞株を用い、腸管上皮細胞を誘導することを目的とした。所属機関内で開発された内在性のヒトおよびマウス腸管上皮細胞の初代培養をもちいた。これらの腸管上皮細胞に特化した培養条件下で、幹細胞に転写因子CDX2を誘導することによって、高効率な分化誘導を期待した。既に実施済みのトランスクリプトーム解析の情報から、CDX2の標的・協調因子群を同定しており、それらの誘導株においても同様の検討を行った。ヒト腸管上皮細胞の試験管内誘導系を構築することで、ヒト腸管発生に対して、逆遺伝学的アプローチによる解析を目指した。実際にCDX2遺伝子を誘導したヒトES細胞をもちいて、実験をおこなったところ、予想とは逆に消化管組織様構造は減少することが観察された。並行して行われているCRESTプロジェクトにより、トランスクリプトームを詳細に解析し、他の転写因子が誘導された株のトランスクリプトームデータを並列的に解析し、各組織との相同性を計算したところ、CDX2誘導株のトランスクリプトームは、全体として神経細胞に近しいことが明らかとなった。同様のアプローチによって、CDX2の下流遺伝子と想定していたNEUROG3も同様に神経細胞に近しいと考えられ、実際に神経細胞様の細胞分化を引き起こすことなどが明らかとなった。これらの事実は実験計画時には想定していなかったが、結果として論理的に妥当な新知見を得たと考えている。これらの知見をまとめ、現在論文を執筆しており、近く投稿する予定である。
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Biol Open
巻: 5(3) ページ: 311-22
10.1242/bio.015735