研究課題/領域番号 |
26840095
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
堀田 崇 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (50644457)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 微小管 / チューブリン |
研究実績の概要 |
本研究は、ねじれ表現型を示すシロイヌナズナのチューブリン変異体について、チューブリン分子における変異がいかにして微小管構築の異常につながり、結果として細胞、器官レベルの形態異常につながるのかを分子レベルで解明することを目的とするものである。 平成26年度はこの目的のため、以前確立した植物材料から全チューブリンを精製する方法の改良に努めるとともに、精製された全チューブリンの中から特に変異型チューブリンだけを取り出す方法の開発に取り組んだ。 チューブリン分子内に6xHisタグを挿入したコンストラクトをシロイヌナズナT87培養細胞において発現させ、これを材料にTOGカラム(チューブリン精製カラム)を用いてまず全チューブリンを精製した。ここからNiカラムを用いてHisタグの導入されたチューブリンだけを選抜することに成功した。 精製チューブリンを用いたin vitro実験には蛍光チューブリンが必要である。当初蛍光タンパク質mCherryを融合したチューブリンを培養細胞にて発現させ、これを精製し当該実験に供する計画であったが、蛍光型チューブリンの発現量が芳しくなく、この計画については実行を諦めるかわりに、精製植物チューブリンに蛍光標識を化学的に導入することでこの問題を解決した。 また、微小管の原繊維数を識別する動物のDCXタンパク質を植物微小管の原繊維数判定のツールとして利用し、シロイヌナズナのねじれ変異体における微小管の原繊維数についての知見を得るための実験を進めた。チューブリン変異体植物の葉からプロトプラストを調製し、これをカバーガラス上に貼り付けた後破裂させ、細胞膜ゴーストを得た。ここに大腸菌にて発現し、精製されたGFP融合型DCXタンパク質を与え、細胞膜ゴースト上に残る微小管への結合性を共焦点顕微鏡により調べたところ、DCXタンパク質が一部のねじれ変異体の微小管には結合しない、すなわち原繊維数に異常がある可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りには進展しなかった実験がいくつかある一方、計画を見直し当初予定になかった実験を行ったことでむしろ計画より明快な結論を得るに至った実験もあることから、全体を通してみればおおむね順調に進展しているといえる。 チューブリン精製の実験については試行錯誤の連続であった。まず変異チューブリンを発現させる培養細胞の選択に試行錯誤があった。当初形質転換が容易であることからAlex培養細胞の利用を検討していたが、チューブリンが十分量精製できなかったことから、チューブリン収量に優れるMM2d培養細胞を用いた。しかしながら逆に形質転換に難があり、最終的に高チューブリン収量、高形質転換効率の両方を満たす細胞としてT87培養細胞を採用するに至った。チューブリンの精製タグについても試行錯誤を重ね、当初計画したc-mycタグでは非変性条件下でチューブリンを回収することが結局できず、断念せざるを得なかった。しかしながら、これらの試行錯誤の結果、T87培養細胞にてHisタグ挿入型のチューブリンを発現させることで、それほどの手間をかけずに特定のチューブリン分子の精製を行う手法が確立された。 DCXの実験については、当初ねじれ植物内でDCXをGFP融合タンパク質として発現させ、in vivoにおけるDCX-GFPの微小管上への結合性を評価する計画であったが、これについてはまず微小管をmCherry-TUBで可視化し、さらにそこにDCX-GFPを導入する必要があり、年度末にようやく種子の回収をみた。一方で細胞膜ゴーストの実験は当初計画にはなかったが、ねじれ変異体にmCherry-TUB遺伝子を導入した時点で早々に実行可能であり、簡便な系であることから明快な結果が得られる可能性が高いと判断し挑戦した。これによりin vivo解析の遅れを補って余りある成果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度については当初の計画に基づき、変異型チューブリンの大量精製と、それを用いたin vitro微小管重合解析を行う。チューブリンの大量精製はまだ全ての変異体について完了していないので、引き続きこれを行う。その後、変異型チューブリンを一定量含むチューブリンをin vitroで重合させ、できた微小管の微細構造を電子顕微鏡観察する計画である。原繊維数への知見を得るためまず微小管の断面を観察する。急速凍結-凍結置換法により固定、樹脂包埋し、超薄切片を作製し透過型電子顕微鏡により観察する予定である。続いて微小管をそのままクライオ電子顕微鏡法で観察し、側面の微細構造を観察することで変異チューブリンを含む微小管が構造的に歪んでいないか詳細に調べる。一方、変異型チューブリンが重合し微小管となる過程を動的に観察するため、全反射顕微鏡上でその重合のダイナミクスを計測する。 DCXの実験については平成26年度に完了しなかったin vivo観察を行う予定である。細胞膜ゴーストを用いた実験ですでに明らかになったように、一部の変異体ではDCX-GFPが微小管に結合しない、すなわち微小管の原繊維数に異常がある可能性が考えられるので、これらの変異体については特に重点的にin vivoでのDCX-GFPの局在性を精査する方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
変異型チューブリン精製の手法を確立するまでの過程で多くの試行錯誤があったため、当初計画したように平成26年度内に全ての変異型チューブリンの大量精製を完了するに至らなかった。これに伴い、チューブリン精製カラム作製や、精製作業そのものに係る各種消耗品の購入が平成27年度にずれこんだこと、またこの遅れにともない当初予定した国際学会への参加を見合わせたことにより次年度使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
計画した全ての変異型チューブリンの精製については平成27年度の計画実行にあたっては不可欠であることから、急ぎ完了を目指す。今回生じた次年度使用額についてはこれらの実験に必要な消耗品、試薬の購入に充てられる。
|