研究課題
本研究は、切断された茎の組織が再生し、組織癒合に至るプロセスの分子機構を明らかにすることが目的である。植物の茎が切断されると、傷害を受けた組織の細胞は細胞分裂を再開し、失われた組織を分化させて機能が回復する。申請者はこれまでに、植物ホルモンによって制御される2種類の転写因子ANAC071・ RAP2.6Lが、組織癒合に深く関与していることを明らかにしている。しかし、植物ホルモンの詳細な局在変化やシグナル伝達系、下流遺伝子の機能については未解明である。そこで本研究課題では、植物ホルモンの時空間的変化を解明すること、また癒合過程における遺伝子発現ネットワークを明らかにすることを目的として研究を遂行した。LMD法などを用いた遺伝子発現解析の結果、切断1日後の花茎切断部では、ANAC071、RAP2.6L遺伝子はそれぞれ、切断部上側、下側の皮層組織において強く発現していることが分かった。また、リアルタイムPCRによる発現解析の結果、切断部位におけるANAC071及びRAP2.6L遺伝子の発現は、切断処理後3時間以内に誘導されることが分かった。植物ホルモンの内生量の変化を測定した結果、切断処理を行ったシロイヌナズナ花茎のJA及びJA-Ile内生量は切断後30分以内に上昇し、1時間後をピークに以降は減少することが分かった。このJA及びJA-Ile内生量の増加は、切断部位から離れた非切断部の花茎においても見られた。一方、IAAの傷の上部への蓄積は、切断1分後から30分以内に開始することが分かった。JA・エチレン関連遺伝子は、切断処理30分後以降に発現の誘導がみられたが、JA関連遺伝子の多くが同じ個体の非切断部の花茎においても発現が誘導されていたのに対し、エチレン生合成遺伝子ACS2は発現誘導が切断部のみで見られるなど、シロイヌナズナ花茎の傷害治癒過程における植物ホルモンの局在・経時変化を明らかとした。
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http://www.teikyo-u.ac.jp/faculties/undergraduate/science_tech/bio_science/research.html