研究課題/領域番号 |
26840101
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
今井 章裕 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, NIBBリサーチフェロー (40711198)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | オーキシン / 幹細胞 / 発光イメージング / 低分子RNA / ヒメツリガネゴケ |
研究実績の概要 |
前年度に作製した、緑色型および赤色型ルシフェラーゼと自己切断配列2Aを用いたヒメツリガネゴケの「新型発光オーキシンセンサーライン」の機能評価を行った。発光検出顕微鏡装置に、赤色および緑色光透過フィルターを用いて波長ごとにシグナルを検出した。しかし、ルシフェラーゼ由来の発光は、その波長の幅が広く、各々の透過フィルターを用いても完全に分離することはできない。そこで、各発光のフィルターの漏れこみ率を測定する実験を行い、その値をもとに検出値の補正を行った。切断した葉において補正されたシグナルを解析したところ、切断後わずか2時間目で、切り口の細胞を除いた葉細胞でオーキシンの増加を示すシグナルの変化が検出された。この空間的なオーキシン量の変化については、オーキシンレポーターであるGH3プロモーターと蛍光タンパク質を用いた実験結果と矛盾しない。しかし、これらのライン間では、オーキシン量の増加が検出されるタイミングが「新型センサーライン」の方がより速い、という違いがあった。この違いは、蛍光タンパク質の蛍光開始までのタイムラグによって説明することができ、「新型センサーライン」は、オーキシン量の素早い変化に、時間的により正確に応答できていると考えられた。 低分子RNAの細胞内局在を可視化するセンサーラインの評価を行った。葉の切断後におけるシグナルの変化について調べたが、定量的RT-PCRの結果と異なり、幹細胞および非幹細胞のどちらにおいてもシグナルの変化は見られなかった。微細なシグナルの変化を検出するには、適度な発現量で誘導される必要があるという可能性が考えられた。 オーキシンセンサーラインの検出に用いている「発光検出顕微鏡装置」に関し、そのシステムの概要、蛍光イメージング解析系と比較した際の利点、その解析事例、を示した日本語解説記事を投稿し、発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型オーキシンセンサーラインに関しては、作製を完了し、予定通りラインの選抜と評価が進行している。 低分子RNAに関しては、それらを可視化するセンサーラインを作成し、シグナルを観察したが、幹細胞化過程において変化はなく、定量的PCRで得られた結果と矛盾していた。ひとつの可能性として、本センサーラインがゲノム中に有する転移遺伝子のコピー数が多く、そのセンサータンパク質の発現量が高すぎて、低分子RNAの量的変化を正しく反映していないのではないかと考えた。現在低コピー数の形質転換植物を再選抜し観察実験をすすめており、当初の予定に比べると時間を要している。 本プロジェクトにおいては、「オーキシン分布の動態」と「低分子RNAによるARF11遺伝子の制御」がオーキシンネットワークモデルを構築するにあたって肝となる実験であったことから、本年度は新型オーキシンセンサーラインと低分子RNAセンサーラインの機能評価を優先してすすめた。その結果、オーキシン輸送体や流入体の遺伝子発現解析を十分にすすめることができなかった。 以上の理由から、全体として、当初の計画から比べてやや進行が遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
新型発光オーキシンセンサーの評価を続行する。具体的には、オーキシンおよびオーキシンアナログの処理によってシグナルが変動することを確認する。サンプル間または細胞間でシグナルの変動のばらつきが大きいということが予備実験の結果から分かっているため、20枚以上の切断葉において発光シグナルの変化を解析する。各細胞における発光シグナルの変化を調べるため、画像解析ソフトImageJと統計解析ソフトRを用いて半自動化できるプログラムを作製し、解析の効率化を図る。平成27年度の成果から、本オーキシンセンサーラインが予想通り機能するだろうと考えられたが、自己切断配列2Aの切断効率が高くないことも分かっている。このことはノイズの増加をもたらす要因であると予想されることから、自己切断配列をタンデムに3つ配置した改良型のオーキシンセンサーの作成も並行して進める。よりノイズが少なく定量性の高いデータが得られると期待される。 転移遺伝子のコピー数が少ない低分子RNAセンサーを選抜・確立して、ヒメツリガネゴケの切断葉における細胞ごとのシグナルの変化を定量的に調べる。 オーキシンの流入および排出輸送体のタンパク質局在について、蛍光タンパク質を内在の遺伝子に融合したノックインラインを用いて観察を行い、幹細胞化過程におけるオーキシンの細胞間移行の有無について考察する。 以上の結果を基に、葉細胞の幹細胞化における、傷害刺激によって変化するオーキシン動態の変化と、ARF11遺伝子の低分子RNAによる制御体系の因果関係を組み込んだネットワークモデルを提唱し、論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に完了する予定であった、オーキシン流入および排出輸送体タンパク質の発現解析実験が、全体の実験の進行の遅れによって、次年度に行う見込みとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
タイムラプス解析に必要である顕微鏡周辺機器の部品、植物培養に必要な試薬や消耗品、機器類を購入する。
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