研究課題
前年度に確立したヒメツリガネゴケの「新型発光オーキシンセンサーライン」の機能評価について、自作した「発光シグナル半自動定量解析プログラム」を用いて行った。本センサーラインに使用した二種類のルシフェラーゼは発光色が異なり、赤色型と緑色型がある。そのうち一方の緑色型ルシフェラーゼにはオーキシン分解ドメイン(DII)が付加されているため、オーキシンが細胞内に多く存在すれば、全発光に対する赤色光の比率が高くなると予想される。画像解析ソフトImageJと統計解析ソフトRを用いて、顕微鏡の各発光フィルターの漏れ込み率を補正しながら多数の細胞における発光量の変化を一度に計測できるプログラムを作成した。このプログラムを用いて、切断した葉と茎葉体において、オーキシン処理時の「新型発光オーキシンセンサーライン」の発光シグナルの動態解析を行ったところ、切断葉・茎葉体ともに、すべての細胞で一過的にオーキシン量が上昇するが、幹細胞または茎葉体の基部細胞ではオーキシンがより積極的に排出されていることが明らかになった。一方、低分子RNAのセンサーラインについて再評価を行った。本センサータンパク質を誘導しているプロモーターはPpARF11遺伝子のプロモーターである。PpARF11プロモーターの活性は、幹細胞および非幹細胞の間で葉の切断後の変動に有意な差はないという結果であった。しかし、研究を進める中で一部これに矛盾する結果が得られたことから、改めて本プロモーターの活性を確認する必要性が生じた。タイムラプスイメージングを行い、蛍光シグナルの挙動の定量解析を行った。その結果、間違いなくPPARF11プロモーターの活性が一定であることを確かめた。加えて、低分子RNAセンサーラインのシグナル動態解析から、野生型の切断葉において低分子RNAの蓄積量の増加を示唆する結果が得られており、再現性を確認している。
3: やや遅れている
当初の計画通りに、今年度は新型発光オーキシンセンサーラインおよび低分子RNAセンサーラインの機能評価をすすめた。高解像度の時空間分解能を有するイメージングシステムの長所を最大限に活かすため、「発光シグナル定量解析プログラム」を予定期間内に自作することができた。これによって、これまでに蓄積した多数のタイムラプスイメージングデータをより正確にかつ効率よく定量解析することが可能になった。また、新型発光オーキシンセンサーラインと低分子RNAのセンサーラインから得られた結果は概ね仮説通りであり、ネットワークモデルを裏付ける成果と言えた。計画当初、オーキシン応答遺伝子であるPpARF11は切断葉において一定の遺伝子発現を保持していると考えられていたため、低分子RNAセンサーラインタンパク質を誘導するプロモーターとして採用された。しかし、顕微鏡イメージング実験結果をまとめる中で、PpARF11のプロモーター活性が変動している可能性を示唆するデータが見られたため、改めてPpARF11のプロモーター活性を再確認する実験を組むことになり、その結果、当初計画していた実験の進行に遅れが生じてしまった。加えて、研究代表者が所属研究機関を異動したため、実験材料として使用しているヒメツリガネゴケの培養機器等の実験環境を変更することが余儀なくされた。培養条件や培地の組成は同一に固定していたものの、ヒメツリガネゴケは環境の変化に想定以上に感受性が高く、異動前と同様の状態のサンプルを準備することができなくなってしまった。現在は改善が見られ、今後の実験に大きな支障はないと考えるが、この期間、培養条件の検討と確立に多くの時間を費やしてしまう結果となった。
引き続き低分子RNAセンサーラインの機能評価を主に切断葉を用いてすすめる。野生型においても、葉の状態に依存して幹細胞形成率が異なることが見られることから、できるだけ多くのサンプルでデータを集め、すべての細胞において蛍光シグナルの動態を調べ、幹細胞と非幹細胞の間にシグナル動態の差が見られるかを統計的に検定する。さらに、オーキシンの流入および排出輸送体のタンパク質局在について、蛍光タンパク質を内在の遺伝子に融合したノックインラインを用いて蛍光シグナルの動態を定量解析する。幹細胞化過程におけるオーキシンの細胞間移行の有無について考察する。タンパク質の蓄積量が少なく、蛍光シグナルが検出できないことが予想されるが、新たなノックイン形質転換体は作成せずに、シグナルが検出された遺伝子に着目して解析を行う。以上から得られる結果と、新型オーキシンセンサーラインの結果を基に、葉細胞の幹細胞化における、生涯刺激によって変化するオーキシン動態の変化とARF11遺伝子の低分子RNAを介した制御ネットワークモデルのシミュレーション結果を提唱し、論文としてまとめ投稿する。
当該年度に完了する予定であった、オーキシン流入および排出輸送体タンパク質の発現解析実験と、数理モデルシミュレーションによる検証、学会発表や論文投稿が、全体の実験の進行の遅れによって、補助事業を1年延長し、次年度に行う見込みとなったため。
当初最終年度として予定していた、オーキシン流入および排出輸送体タンパク質の蛍光イメージング実験を行う。予算は、植物培養に必要な試薬や消耗品、機器類を購入するほか、解析装置を有する基礎生物学研究所への旅費と、培養機器や、顕微鏡関連の消耗品費の購入に充てる。また、学会参加や論文投稿を予定しており、そのための費用として使用する予定である。
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Nature Communications
巻: 8 ページ: 14242
10.1038/ncomms14242