研究課題/領域番号 |
26840102
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
池田 美穂 (樋口美穂) 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10717698)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 転写因子 / 細胞伸長 / 光シグナリング / 相互作用因子 / ホルモン応答 |
研究実績の概要 |
平成27年度はH26年度までに同定した13種類の因子について、シロイヌナズナ全転写因子1700個を対象とした酵母ツーハイブリッドスクリーニング(Y2H)を行なった。現在までにIBH1グループ8種類、PREグループ5種類について1stスクリーニングを終了、IBH1グループ因子3種類について相互作用因子同定を終了、ACEグループの新奇候補因子を10因子以上単離した。これらの中には細胞伸長制御に関連する植物ホルモンであるブラシノステロイドやジベレリン、オーキシンのシグナル伝達や生合成に関連するものが含まれていた。この結果はtri-antagonistic bHLHシステムが各植物ホルモンの上下で細胞伸長を制御することを示している。また、単離した相互作用因子の中には、新しいグループのnon-DNA binding bHLHなど、既知のtri-antagonistic bHLHシステムの枠に収まらない因子や、転写リプレッサーなども含まれており、システムの全体像が従来の理解よりも複雑である可能性が示された。これらの新奇因子のキメラリプレッサー発現体について、形態解析を順次行って、矮性や短い鞘といった細胞の伸長阻害に由来する形質、あるいは、葉や茎の伸長など細胞の伸長促進に由来する形質を多数のラインで確認した。 H26年度に新奇因子として単離したPAR1については、70個近い転写因子を相互作用因子として同定した。これらの中には既知の相互作用因子であるPIF4, ACE, PREも含まれており、スクリーニングそのものは成功していると思われる。PAR1相互作用因子の中にはPRE、ACE両グループの因子だけではなく、IBH1も含まれていたことから、PAR1は、PRE、ACE、IBH1の各グループの枠に収まらない新奇グループを形成する因子であることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトにおいては細胞伸長制御の全容解明の足がかりとして、細胞伸長制御シグナルを統合するシステム(tri-antagonistic bHLHシステム)に着目し、植物細胞の伸長制御システムのアウトラインの解明をめざしている。H27年度の研究においては、新たなtri-antagonistic bHLHシステム構成因子に加えて、tri-antagonistic bHLHシステムと関連する未知のシステムの存在を暗示する多くの因子を単離できた。これらの因子の中には、各植物ホルモン関連の因子や、鞘、花器官、根毛などの時期・組織特異的細胞伸長に関与するものなどが含まれていた。これらの結果は、tri-antagonistic bHLHシステムが多様な植物ホルモンによる細胞伸長制御に関与することや、植物ホルモンの生合成制御にも関わること、さらには、個別の植物組織・器官の伸長制御にも関与することが示唆され、tri-antagonistic bHLH関与する植物現象について、より深い理解と、多様な可能性が示唆されたといえる。当初の研究計画からすると、進行はやや遅れているように見えるが、当初の計画に無かった多数の、また、多様な因子が単離され、tri-antagonistic bHLHシステムと多様な現象との関連性が示唆されたことは想定外の大きな成果であり、これによって、tri-antagonistic bHLHシステム解明の重要性が増しつつあると言える。さらに、PAR1に代表されるような既知のtri-antagonistic bHLHシステムの枠にはまらない因子が同定されつつあることは、tri-antagonistic bHLHシステム全体像の広がりを予感させる。よって、本プロジェクトはおおむね順調に進展していると私は考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究においては、Y2Hスクリーニングを全ての因子について終了するには至らなかったため、引き続き、酵母ツーハイブリッドスクリーニングを遂行し、早急に全因子の単離を試みるとともに、H27年度中に単離した因子について、CRES-T植物体、多重変異体の表現型解析などを順次行う。これらの結果を統合することで、新たなtri-antagonisitic bHLHシステム像の確立をめざす。また、H26, H27年度に解析した光シグナリングとtri-antagonistic bHLHシステムとの関連性に加えて、各植物ホルモンや、組織形成などとの関連性について解析を進めたい。さらに、H27年度に作成していたACE多重変異体の解析も行なう予定にしている。これらの成果については、H27年度中に既に論文を執筆、英文校閲を終了し、現在は投稿準備中であるが、さらに多くのデータが得られていることから、最終年度は複数の論文を発表したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度の研究においては、不足試薬、機器類などを購入するため、物品費を使用した。執筆中の論文の英文校閲費や、学会参加・研究打ち合わせのための旅費については、所属機関の女性研究者支援事業などの支援が得られたため、謝金・旅費を使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は最終年度であるため、さらに実験を加速する予定である。よって、これまでの使用によって不足している試薬類や植物細胞用資材類に加え、小備品類などを購入することで、より効率的な研究の推進につなげたい。また、これまでのデータを統合し、発表するため、学会参加のための旅費、論文校閲費、論文掲載料などの支出を予定している。
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