花粉管はめしべ内を伸長し、迷うことなく胚珠へ到達し受精する。この現象は花粉管ガイダンスと呼ばれ、植物が種子を作るために重要なステップである。しかし、一連の過程はめしべ深部でおきるため、in vitroでの解析が主であり、いまだ未知の点が多い。そこで本研究では、植物の受精機構の全容を解明するため、シロイヌナズナを用いて受精過程のライブイメージングを試みた。 始めに、シロイヌナズナの雌雄の各組織または細胞を蛍光タンパク質により可視化したマーカーラインを作製した。また、共同研究により植物組織の透明化試薬であるClearSeeを開発し、固定しためしべを解剖することなく内部を詳細に観察することに成功した。これにより、花粉管ガイダンスを定量的に評価することが可能となった。 次に、めしべを生きたまま長時間観察するため、二光子顕微鏡を用いて条件検討をおこなった。その結果、980-1000nmという長波長の励起光を用い、橙色系の蛍光タンパク質を用いることで、最も効率的に観察ができることが分かった。 次に、検討した条件下でめしべ深部を生きたまま観察する方法を確立した。その結果、めしべ内の花粉管の挙動を、最長24時間、連続でライブイメージングすることに成功した。花粉管の経路や胚珠へと誘引された花粉管の特徴を調査するため、マーカーラインの花粉を野生型、および花粉管ガイダンスに異常を示す変異体のめしべに受粉した。その結果、誘引された花粉管が備えている特徴を捉えることに成功した。また、野生型、および変異体で花粉管の挙動を比較し、花粉管が胚珠へ到達するために必要な要素を絞り込んだ。 今後、花粉管ガイダンスの全容を解明するためには、本実験で確立されたライブイメージング方法だけでなく、細胞の顕微操作や分子メカニズムの解明など、より詳細な実験が必要であると考えられる。
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