研究課題/領域番号 |
26840112
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣井 誠 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (80597831)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 記憶・学習 / ショウジョウバエ / 匂い記憶 / 味覚 / 神経可塑性 / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
学習・記憶のメカニズムを知るためには、どの神経細胞が記憶の形成・維持・読み出しに関わるかを知ることが不可欠である。記憶獲得の前後では条件付けに使われた刺激に対する応答が特定の神経細胞で変化することが予想され、それらが学習・記憶に必要な神経細胞の有力候補となる。学習が行われている最中の脳の神経活動をモニターし、その解析から匂い「学習・記憶細胞」を同定することを主な目的としている。本年度は、比較的短い時間で起こる学習初期(短期記憶)に関わる神経細胞群の同定を試みた。 ショウジョウバエの嗅覚関連学習においてキノコ体の入出力に関わる神経群が重要だと言われていたが、学習によってそれらの可塑性を生理学的に示すことが課題であった。そのため顕微鏡下で学習を行わせながら、キノコ体の出力神経群のカルシウムイメージングを行った。約2000のキノコ体神経から30個の出力神経へ接続しているうち、そのうち少なくとも1つの神経において学習前後において条件付けされた匂い刺激への応答が変化することを確認できた。条件付けしていない匂い刺激では変化が見られないこと、異なる匂いを用いても同様の変化が見られることから、この可塑性は条件付け特異的なものだと考えられる。 興味深いことに可塑性の増減が、報酬学習と嫌悪学習とで逆になることがわかった。これは最近、イギリスの研究グループからの報告と同様の傾向があった。報酬・嫌悪学習それぞれに独自の機構を備えるのではなく、キノコ体からの出力の総体としてある一定の価値を線形的に抽出していることを示唆している。 今後は(1)その他の出力神経の可塑性の確認、(2)条件刺激入力と可塑性の度合いを比較することによって学習効率の定量化を試みていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短期記憶に関わる神経細胞群の同定に関して、条件付け特異的な可塑性を示す神経細胞を少なくとも1種類確認することができた。顕微鏡下でカルシウムイメージングを行いながら学習させる実験系を確立できたことが重要な結果となる。 一方で、キノコ体自身の可塑性の有無は完了していないため、匂い入力から可塑性の定量的解析は喫緊の課題である。蛍光波長の異なる2種類のカルシウムセンサーをキノコ体神経とその出力神経それぞれに発言させ、可塑性を観察する実験は現在進行中で、データを貯めている過程である。
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今後の研究の推進方策 |
キノコ体出力神経の可塑性の程度による入力刺激による学習効率の定量化を試みる。匂い刺激に対するカルシウム応答は個体ごとに大きく異なるため、定量化には解析上の工夫が必要になってくると予想される。数学的なモデルを仮定することによって多変量解析を効率的に行えないか共同研究を含めて検索中である。また今回以外のキノコ体出力神経の学習による可塑性の有無はまだ完了していないので、引き続き短期学習に関わる神経細胞を探索する。 現在、神経のカルシウム応答の増減を指標として生理学的な解析を行っているが、学習に関わる変化を分子レベルでも調べるために、長期記憶形成に重要とされているCREBタンパクを手掛かりに実験を行っていく予定である。当研究室で作成されたCREB応答性神経を可視化できる系統を用い、短期記憶から長期記憶への記憶の遷移(固定化)回路を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
基金の一部の範囲内で研究を遂行したたため。
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次年度使用額の使用計画 |
CREB応答性神経と平成26年度で同定した短期記憶神経の回路関係を明らかにするために、26年度の経費と合わせて、様々な変異系統の作成、維持、増殖に用いる試薬、培地を購入する。 また、これらの分子生物学、神経生物学研究用試薬、実験器具を購入する。
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