学習記憶のメカニズムを知るためには脳のどの細胞が記憶の形成・維持・読み出しに関わるかを 知ることが不可欠である。本研究では学習が行われている最中の個体の脳の神経集団活動をライブでモニターし、記憶細胞を同定することを目的とした。長期記憶の中心的役割を担う転写因子 CREB 活性細胞との関連について解析することで、短期記憶から安定した長期記憶を形成する遷移を、生理学的な解析を行った。 (1)嗅覚記憶中枢での報酬刺激・忌避刺激に対する応答 これまで学習初期フェーズにおこる神経活動変化として、キノコ体垂直出力部(α/α' lobe)での条件刺激に対するCa応答上昇が挙げられていた。報酬・忌避情報の入力がドーパミン神経を介してキノコ体へ入力している部位は、別の部位(γ/β/β')にも及んでいることが、行動実験による先行研究で明らかになっていた。本研究のライブイメージングの結果、忌避情報である電気ショックがキノコ体へ入力される部位を比較した。結果、キノコ体には電気ショックに対する応答性が異なるグループが存在し、それぞれ異なるダイナミクスで応答していることが明らかになった。これは、電気ショックの情報がキノコ体において、複数回異なる神経を通して処理されていることを示唆する。それぞれのグループの発火ピーク間の時間は少なくとも数百1ミリ秒あることから、キノコ体へ入出力を繰り返す情報の「リカレント」があることを示唆する。 (2)電気ショックに対する応答性によってキノコ体の神経群をグループ分けすると、CREB陽性・陰性神経と関連性があることがわかった。CREB陽性神経を得意的に標識する系統は、当研究室によって作成されたものを用いた。現在は、電気ショック情報のCREB陽性・陰性神経への入力経路、また出力経路をカルシウムイメージングによって、解析を行っているところである。
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