転写とDNA複製は両者ともゲノムDNAを鋳型として新生DNA鎖または新生RNA鎖を合成する。しかしS期に発現中の転写領域については、ゲノムDNAがどのように複製されるのかについてはあまり理解されていない。転写と複製の衝突は、RNA polymeraseおよびDNA polymeraseの進行異常を引き起こし、ゲノム不安定性の原因になることが示唆されている。本研究では、ヒトゲノムに約400コピー存在し、細胞内で最も転写の活発なリボソームRNA(rRNA)遺伝子(rDNA)に着目し、この問題に取り組んでいる。 本研究では、DNA複製中間体の構造を分離することが出来るDNA二次元電気泳動法を用いて解析を行っている。これまでに、45S-rRNA転写領域の3’側に存在する既存のDNA複製進行阻害点(Replication fork barrier: RFB)に加えて、転写領域上流にもDNA複製が停止する領域が存在することを明らかにした。この領域には、RFBのcisエレメントであるSal-box と相同な配列が含まれており、これが転写領域上流のDNA複製停止のための責任配列であると考えられる。実際にヒト細胞中でDNA複製可能なプラスミド上にこの配列をクローニングしたところ、プラスミド上のDNA複製が停止した。RFBのSal-boxでは単独で存在する場合、転写の下流から進行するHead-on方向のDNA複製のみに作用して進行を阻害するが、転写領域上流のエレメントでは転写と同じ方向に進行するDNA複製にも作用した。したがって、45S-rRNA遺伝子の上流から転写領域に侵入するDNA複製を停止すると考えられる。RFBが主に転写の下流から進むDNA複製を阻害することから、DNA複製がRNA polymerase Iの転写領域に進行することを上流と下流から阻害して、DNA複製と転写の衝突を回避されている可能性が考えられる。
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