研究実績の概要 |
ミジンコは、環境の変化に応答して単為生殖と有性生殖を転換するが、いずれも2倍体の個体を形成する。単為生殖では、減数分裂の第1分裂に相当する分裂を途中でスキップし、第2分裂に相当する分裂のみが起こり発生するが、その分裂を制御する分子機構は明らかではない。本研究では、ミジンコのゲノム編集基盤を確立し、逆遺伝学的な解析を可能にすることで、単為生殖で起こる特殊な減数分裂に関わる遺伝子の機能解析を進めることを目的とした。まず、標的遺伝子の破壊(ノックアウト)法を確立するため、人工制限酵素TALENを用いたDistal-less (Dll)遺伝子のノックアウトを試みた。Dllは、酵母からヒトに至るまで高度に保存されたホメオボックスをもつ転写因子で、節足動物では、付属肢の遠位部形成に関わる遺伝子である。Dll遺伝子を標的とするTALENのmRNAを合成し、マイクロインジェクションにより産卵された直後の胚に導入した。その結果、付属肢の遠位部形成が阻害された表現型が得られ、Dll遺伝子の塩基配列には数塩基の欠失が認められた。さらにその変異が次世代に受け継がれることも確認できた(Hiruta et al., 2014)。また、ゲノム編集を行った胚の表現型を解析するために、比較の基準となる雌雄それぞれの正常胚についての発生段階表を作成した(Toyota et al., 2016)。さらに、外来遺伝子の付加(ノックイン)法の確立を行うため、Dll遺伝子およびヒートショックタンパク質遺伝子の開始コドン直後または終止コドン直前に緑色蛍光タンパク質を導入してレポーターミジンコを作出する実験に着手した。現在、ミジンコでノックイン法が機能しているか検証中である。
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