研究課題/領域番号 |
26840117
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西原 秀典 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (10450727)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 分子進化 / 発現制御 / 脳 / 哺乳類 / レトロポゾン |
研究実績の概要 |
脳梁は左右の大脳半球間における情報伝達に重要な役割を担う。レトロポゾンに由来するAS021と名付けた保存領域は、脳梁形成の必須遺伝子であるSatb2のエンハンサーとして機能する。本年度は昨年度に引き続き、AS021エンハンサー活性を示すニューロンにおけるSatb2およびエンハンサーに結合する転写因子の抗体を使用した免疫染色をさらに詳細におこなった。特に大脳新皮質深層における相対的な発現量を比較し、各因子の制御関係の解明をおこなった。その結果、エンハンサー活性とSatb2の発現量には正の相関が見られたが、AS021結合因子とSatb2の発現量に負の相関が見られることが明らかになった。そこでAS021領域を持たないノックアウトマウスについて発現解析をおこなったところ、Satb2発現細胞におけるAS021結合因子の発現量がわずかながら高いことを示す結果が見られた。またノックアウトマウスにおける脳梁形態の差異の検出も試みたが、野生型と比較して顕著な差は見られなかった。以上の結果は、AS021がSatb2のエンハンサーでありその結合因子がその活性を抑制する働きを担っていることを示唆するものである。またAS021欠損マウスでは他のシス調節領域がSatb2の発現を補償することで、脳梁形成の強固性が保たれていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではAmnSINE1に由来するエンハンサーに対する結合因子を初めて同定した。当初予定していたChIP解析に関しては抗体の問題が解決しないことから困難であるが、一方でマウスを用いた発現解析からは、その結合因子がエンハンサー機能に対して抑制的な役割を果たすことを明らかにした。これは、AS021以外のレトロポゾン由来エンハンサーがどのような発現制御機構をもたらしたのかを今後解明する上で極めて重要な知見になる。またAS021欠損マウスを用いた組織染色からは脳梁形成に関して明らかな異常は見られないことから、複数の二次エンハンサーによる補償システムの存在が示唆されるという最終的な結論を得るに至った。以上のことから、研究計画全体としてはほぼ順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
大脳新皮質の組織切片を用いた免疫染色の実験をさらに進め、ノックアウトマウスでわずかに見られたAS021結合因子の発現量の差異に関して詳細に明らかにする予定である。一方、今年度はその結合因子の抗体を用いたChIP実験を保留しており、その代わりとして今後はAS021に結合する可能性のある他の因子のChIP-seqデータ利用した解析をおこないたいと考えている。特に近年ではENCODE計画はじめとして、細胞ごとのDNA結合因子のマッピング情報やゲノムワイドなモチーフ配列情報が充実している。そのため、今回明らかになったAS021エンハンサーに対する抑制的結合因子の情報を手掛かりとすることで、レトロポゾンに対する結合因子の分布を網羅的に調べることが可能となる。これにより、脳梁伸長ニューロンに加えて他のニューロンの発生や哺乳類特異的な組織形成(二次口蓋や乳腺等)にもレトロポゾンと当該結合因子が関与してきたことを明らかにできる可能性がある。したがって今後はAS021とともに他のレトロポゾン由来配列に関しても分子機能解析を展開する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画として当初予定していたChIP実験系の確立に時間を要していること、また本年度では特にAS021結合因子のゲノムワイドな結合分布の解析を開始していることが主な理由として挙げられる。そのためこの解析から得られるデータを元にして今後エンハンサー機能を実験的に検証するため、助成金の一部を次年度に使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、転写因子の結合分布データを揃えるとともに、その情報に基づいてAS021および他のレトロポゾンが持つエンハンサー機能測定を展開する予定である。そのため繰り越した助成金は培養細胞を用いたエンハンサーアッセイに充てる予定である。
|