研究課題/領域番号 |
26840122
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
宮川 一志 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, NIBBリサーチフェロー (30631436)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 幼若ホルモン / 節足動物 / Methoprene-tolerant / リガンド特異性 |
研究実績の概要 |
幼若ホルモン(JH)は、多くの昆虫や甲殻類において共通して脱皮や変態の制御などに関与する重要なホルモンである。また一方でJHはそれぞれの種や分類群で新規に獲得された現象の制御を担う例も数多く知られている。このJH経路が共通の機能を維持しつつ多面発現的に様々な新規機能を獲得した背景を理解することは多様な節足動物の進化過程を理解する上で重要である。本研究ではJH経路の中核を担うJHの受容体分子に着目し、新たな上流・下流シグナルの獲得、すなわち新規の制御関係の獲得がどのような仕組みでおこなわれたかを、複数の節足動物を用いてそのJH受容体の性質を比較することで明らかにすることを目的とする。 平成26年度は甲殻類であるミジンコおよび昆虫類であるコクヌストモドキ、ネッタイシマカ、キイロショウジョウバエを用いてJH受容体のリガンド特異性の比較を行った。4種の節足動物よりJH受容体遺伝子であるMetとSRCのクローニングし、Two-hybridルシフェラーゼアッセイを用いてリガンド特異性を評価した結果、昆虫類のJH受容体は甲殻類のJH受容体と比較して、昆虫類特異的なJHリガンドであるJH IIIに対する感受性が極めて高いことが明らかとなった。さらにこの甲殻類と昆虫類のリガンド特異性の違いは、ミジンコとコクヌストモドキのMetとSRCの組み合わせを相互に入れ替える実験によって、Metによって規定されているということが明らかとなった。この甲殻類と昆虫類で見られるJH IIIに対する応答の違いをもたらすMetのアミノ酸配列の違いをMetへの変異導入によって調べたところ、甲殻類と昆虫類の間で異なる一つのアミノ酸が大きく影響していることが明らかとなった。これらの結果は節足動物におけるJH経路の進化とリガンド転換の分子機構を明らかにする上で重要な知見であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の目標であった「リガンド特異性の種間比較によるJH受容体の上流シグナルの解析」はほぼ予定通り終了しており、また得られた結果は当初の予想を超えて、節足動物類の進化を考察する上で興味深く示唆に富むものであった。現在得られた結果について論文を執筆中である。さらに、当初平成27年度に行う予定であった下流シグナルの解析にもすでに着手しており、昆虫類のJHREを組み込んだレポーターベクターなどの実験に使用するベクターコンストラクトの作成に成功している。そのため、平成27年度の研究の進行はスムーズに進むと考えられ、平成26年度の結果と合わせて本研究の目標であるJH経路の進化について多面的な考察が可能になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である平成27年度は、JH受容体のMetによって制御される遺伝子を甲殻類であるミジンコにおいて探索し昆虫類と比較することで下流シグナルの進化過程の解明を目指す。すでに対照実験に用いる昆虫類の下流遺伝子のベクターコンストラクトは作成済みであり、また様々な下流候補遺伝子のコンストラクトも現在作成中である。これらを用いたレポーターアッセイを随時行うことで、昆虫類あるいは甲殻類特異的な下流因子の同定のみならず、分類群特異的な下流因子の獲得がどのような分子生物学的背景で獲得されたのかが明らかになると期待できる。最終的には平成26年度の結果と合わせて考察することで、受容体を中心としたホルモン経路の進化過程について分子生物学的背景からモデルを構築したい。
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