研究実績の概要 |
解糖系は全ての反応が細胞質内で起きるとされているが、この常識に反して原生生物の一群であるケルコゾア生物においては、その一部の反応がミトコンドリア内で起こることが予想されている。本研究ではケルコゾア生物群のミトコンドリア(Mt)型解糖系について、基礎的データを拡充することを目指している。平成26年度はケルコゾア生物群内におけるMt解糖系酵素の多様性を明らかにするため、これまで網羅的探索が行われてこなかった、ケルコゾアの2つの系統であるグラノフィローサおよびテコフィローサに属する2種の生物(いずれも未記載種。それぞれUG、UTとする)について、Mt解糖系の探索を行った。UG、UTについてmRNA配列の網羅的な解読を行い、トランスクリプトームデータを得た。またこれらに加え、別系統のケルコゾアグループ(インブリカータ)に属するPaulinella chromatophoraのトランスクリプトームデータに対し相同性検索を行い、それぞれの生物における解糖系酵素(TPI, GAPDH, PGK, PGAM, Enolase, PK)のオルソロガスタンパク質遺伝子を網羅的に探索した。その結果、Mt解糖系酵素を持つ生物特異的に見られるTPI-GAPDH融合タンパク質遺伝子はケルコゾア生物の中でも比較的最近分岐したと考えられるインブリカータおよびテコフィローサのみで発見された。このことからケルコゾア生物群の共通祖先は当該タンパク質を持たず、ケルコゾア生物群の進化の中において一部の系統で獲得されたことが考えられる。またこれまでクロララクニオン藻Bigelowiella natansにおいて網羅的なMt解糖系酵素の探索が行われたが、そこにおいて発見されたMt解糖系酵素の同一系統遺伝子はケルコゾア全体では保存されていないことが明らかとなった。しかし、別系統のオルソロガスタンパク質がミトコンドリア移行シグナルを持つことが示され、ミトコンドリアに局在する解糖系酵素はケルコゾア全体に存在することが予想された。
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