肉眼的に観察可能な子実体(キノコ)を形成する、大型菌類(いわゆるキノコ類)の中で、ブナ科・マツ科・フタバガキ科といった樹種と相利共生する種群は外生菌根菌と呼ばれる。一般的に生物種は低緯度地域ほど種多様性が高い傾向にあるが、外生菌根菌は高緯度地域の種多様性が低緯度地域と同等かそれ以上であることが知られている。本研究では、このような外生菌根菌の種多様性のパターンを生み出したきっかけとして、宿主となる樹種との共生関係に着目した。当初の計画では、菌根サンプルの解析から、外生菌根菌の多様性と共生樹種との関連性について調べる予定であったが、熱帯地域での菌根サンプルの入手が困難となったことから、入手が容易な子実体サンプルを用いて、その関連性について調べた。まず、世界各地から外生菌根菌の一種であるオニイグチ類の子実体サンプルを収拾した後、80個のシングルコピー遺伝子の塩基配列を解読した後、分子系統推定を行った。さらに、得られた分子系統樹の樹形および樹長と現存種がどういった樹種と共生しているかの情報に基づいて、宿主状態ごとの多様化速度(種分化速度と絶滅速度の差)を推定した。この解析の結果から、オニイグチ類は、アフリカ熱帯域で起源した後、フタバガキ樹種とともに白亜紀末におけるインド亜大陸の移動に伴って東南アジア熱帯域に進出したことが分かってきた。さらに、その後、ユーラシア大陸に広く分布するブナ科・マツ科樹種に宿主転換を果たしたことで、分布域が急速に拡大し、異所的種分化が促進される形で種多様化が一気に進んだことが示された。本研究の結果から、現在見られる外生菌根菌の種多様性のパターンがどのように生まれたかが分かってきた。
|