研究課題
1. 26年度に開発したマイクロサテライトマーカーを用いて,メアジとオニアジでそれぞれ見いだされたミトコンドリアDNA2系統間における核ゲノムの分化を検証した.その結果,メアジでは有意な分化が見られなかったが,オニアジでは明瞭な分化が見られた.このことから,メアジの2系統は種内系統であるが,オニアジの2系統は互いに別種の関係にあると考えられた.これらの結果は,氷期-間氷期サイクルにともなう海水準の変動に対し,両種の遺伝的集団構造がそれぞれ異なる応答をしたものと解釈できる.すなわち,いずれの種も氷期におけるスンダシェルフの陸地化により分集団化を経験した後,メアジではそれら分集団の間に生殖隔離機構が進化する前に再接触した一方,オニアジではその進化後に再接触したと考えられる.また両種とも日本周辺では2系統が同所的に分布することが判明した.2. グルクマと同定した標本において26年度に見いだされた3つのミトコンドリアDNA系統の間で外部形態を詳細に比較したところ,明瞭な違いが見られ,それぞれ既知の3種(グルクマ,R. brachysoma,R. faughni)に一致した.これら3種の分類は混乱していたが,本研究により互いに別種であることが確認された.その後,遺伝学的手法に基づく3種の簡易識別法を開発した.これら3種には分布の偏りが見られることから,種分化に海水準変動が関係していると考えられた.3. 分析対象種にモロとクサヤモロ(アジ科)を加え,mtDNAの塩基配列分析を行った.
3: やや遅れている
ミトコンドリアDNAの分析はおおむね計画通り進行している.マイクロサテライト解析については,27年度に計画していた予備実験をいくつかの対象種で実施できなかったことや,追加種のプライマー開発を今後行う必要が生じたことが,当初計画からの遅れとして挙げられる.一方,メアジとオニアジは計画を前倒しして本実験に供することができた.また,グルクマやモトギスでは代替の分析手法(形態解析・核ゲノムの塩基配列解析)により分析の目的を達することができた.以上から,分析については全体としておおむね順調である.一方サンプリングはやや遅れている.27年度はインド洋と太平洋の標本を採集する予定であったが,遺伝資源のABS問題に関する国際情勢にかんがみて行わないこととし, 28年度以降に合法的に標本採集を行うための準備を優先した.これまでに各国の政府機関と連絡をとり必要な法的手続きを確認したほか,一部の国では許可取得手続きがおおむね完了している.
引き続き標本採集の合法化にむけた手続きを行い,その後インド洋と太平洋の標本を採集する.また,28年度から代表者の所属が変更することに伴い,遠心機やトランスイルミネータといった本研究に必須の実験用機器を新たに購入する必要が生じる.分析対象に新たに追加した種のマイクロサテライトプライマーの開発を行い,既に開発済みの種と合わせてマイクロサテライト多型解析を実施する.これらの結果を26年・27年度に得た南シナ海内部のデータと比較することによって,南シナ海集団と周辺海域集団の関係を種毎に明らかにする.最後に,以上の結果を種間で比較することによって,分布域形成におけるスンダシェルフの陸地化や各種の生態,系統的位置の重要性を推定する.
遺伝資源のABS問題に関する近年の国際情勢を考慮して,標本採集を28年度に延期したことによる.
遺伝資源へのアクセス許可が得られた国から順次標本採集を行う.
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Ichthyological Research
巻: 63 ページ: 275-287
10.1007/s10228-015-0498-z