本研究では、動物界の中でも最も顕著な表現型多型を示すサケ科魚類を用いて、回遊多型の遺伝的基盤と進化的起源を明らかにする。サケ科魚類の中には一生を産まれた河川で過ごす小型の残留型と海や湖に降りて大型化する回遊型が存在する。残留と回遊の分岐には環境と遺伝の両要因が効いているが、それに関連する遺伝子群はほとんど分かっていない。本研究では複数のサケ科個体群でゲノムワイド関連解析を行い、回遊に関わる遺伝子の数や影響力を評価し、サケ科の回遊における平行進化の遺伝的メカニズムを解明する。 サクラマス(ヤマメ)は北海道内の10河川から降海型オス約200個体、残留型オス約200個体を捕獲した。アメマス(エゾイワナ)は函館近郊の汐泊川から降海型オス約50個体、残留型オス約200個体、降海型メス約100個体、残留型メス約150個体を捕獲した。その中からサクラマス10個体群288個体(降海オス144個体、残留オス138個体)、アメマス96個体(残留オス24個体、残留メス24個体、降海オス24個体、降海メス24個体)においてRADシーケンスを行った。 RAD解析の結果、サクラマス、アメマス合計384個体全てにおいてゲノム全域から約480万塩基サイトのシーケンスを読むことができた。しかし、降海型と残留型の遺伝的変異を調べるための関連分析(GWAS)を行ったところ、両者を区別できる遺伝子領域はわずか2-3遺伝子座のみであり、効果もそれほど強くなかった。 サクラマスに近縁のニジマスで行われた先行研究では降海型と残留型を区別する非常に明瞭な遺伝子領域が見つかっている。今回見つかった候補遺伝子領域をニジマスのドラフトゲノムと比較したところ異なる領域であった。ニジマス、サクラマス、アメマスと似たような降海性を持つが、これらの種は異なる遺伝的基盤を用いて降海/残留の表現型多型を達成している可能性がある。
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