同種精子優先とは、他種のオスと交尾しても、同種のオスに由来する精子を受精に用いることを指す。従来、進化生物学では、交配後・接合前の生殖隔離メカニズムとして注目されてきた。コオロギやショウジョウバエなどの昆虫類だけでなく、ウニやマウスなどでも報告されている。同様の現象は植物でも知られており、一般的には「同種配偶子優先」と呼ばれている。ところが、同種精子優先が相互作用する2種の生態的動態に与える影響はこれまで調べられてこなかった。 そこでナミテントウとクリサキテントウを対象に、同種精子優先の生態学的意義について検討した。両種のメスともに、交尾の順番にかかわらず、同種の精子が優先するメカニズムが備わっている。種内および種間の交尾行動を観察したところ、(1)ナミテントウのオスの交尾頻度が高いこと、(2)未交尾のメスは同種・他種オスの求愛を受け入れて交尾すること、(3)2回目以降の交尾においても配偶選好性などに変化はないこと、などが明らかになった。 次に、数理モデルを構築し、上記の行動実験で得られたパターンと比較した。その結果、交尾頻度などの種間差は、すべてナミテントウがクリサキテントウを排除する方向に働くことが分かった。たとえ同種精子優先のメカニズムがあったとしても、相互作用する2種は安定的に共存できないことが明らかになった。 以上の結果を総合すると、同種精子優先は繁殖干渉のコストを十分に軽減できず、同じニッチにおける2種の共存を許容しないことが示唆された。これは、同種精子優先の存在が報告されているさまざまなペア種が、野外ではニッチ分割もしくは地理的に異なる分布域に生息していることと整合性がある。
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